ワールドカップのようなメガスポーツイベントにおいては、開催国にローカル組織委員会が組織され、その後に開催都市が決定する。構造としては、主催者、大会組織委員会、開催都市と3つの層があるわけだ。オリンピックの場合には、主催者が開催都市と契約するので二層構造となる。
どちらにせよ、組織委員会と大会を主催する国際スポーツ団体の間で、同床異夢の側面もあり、ローカルの利益の最大化を目指す組織委員会や開催都市と全体最適を考えなければいけない主催者の対立も起こる。このために意見の衝突の理由の一つは、知識の非対称だ。ローカル組織委員会や開催都市は、包括的な契約を結んでいるのにも関わらず、大会についての知識を限定され、主催者が行っているスポンサー契約や放送権などの含めたの全体像を理解していない知識不足の面もある。しかしながら、これについては主催者側のコミニケーションの努力によっては解決できる部分も多い。だが、実態はコミュニケーション不足は日常茶飯事だ。
このような事は、2026年のFIFAワールドカップを開催する北米でも同じように起きているようだ。
FIFAワールドカップ2026は、史上初のカナダ、アメリカメキシコ3カ国での共催となる。開催都市は2022年6月16日に以下の16都市が選ばれている。
- ▼アメリカ
- アトランタボストンダラスヒューストンカンザスシティロサンゼルスマイアミニューヨーク/ニュー・ジャージーフィラデルフィアサンフランシスコ・ベイエリアシアトル
- ▼メキシコ
- グアダラハラ
- モンテレイ
- メキシコシティ
- ▼カナダ
- バンクーバー
- トロント
FIFAワールドカップ2026の3カ国共催決定後に、FIFAはクラブワールドカップを2023年6月にアメリカで開催することを決定した。しかし、この決定を2026年のFIFAワールドカップ開催するアメリカの11の開催都市は何も聞いていなかったようだ。開催都市は、その決定をニュースで初めて知ったと言う。そして、その決定から、2ヶ月たっても、2025年クラブワールドカップについて詳細の説明が全くないようだ。これがコミュニケーション不足でなくて何だろう。
開催都市にとっては、クラブワールドカップが2026年のFIFAワールドカップのテストイベント的な大会になるのかそうでないかが重要だ。
開催都市は、テストイベントの開催を開催包括契約で約束している。だから、テストイベントであれば、2026年ワールドカップで使うNFLサイズのスタジアムで開催しなければいけない。だが、テストイベントでなければ、NFLとMLSの小さな施設を組み合わせることも可能となる。
しかも2026年度に使用するNFLサイズのスタジアムは建設中か改修中で2025年夏に完了する予定となっている。これに加え、すでに多くの施設はアーティストのコンサートツアーや、北中米サッカー連盟のゴールドカップ2025大会で使用する予定となっている。この状況を考えると一刻も早くFIFAとの合意が必要だが、まだ会話すら始まっていないようだ。
2025年のクラブワールドカップは、フォーマットを変更し32チームが参加する重要な大会となる。FIFAとしては、影の薄いクラブワールドカップのイメージとステイタスを改善する重要な大会だが、こんな状況だ。
これらの問題は、FIFAが2025年大会の詳細を早期に決めて、組織委員会や開催都市とコミュニケーションを良くすれば解決できた問題なのであろう。しかしながら、担当していた役員が辞職したことも関係して、まだ詳細が詰められていないようだ。
2026年のFIFAワールドカップについても、開催都市は何試合開催するのか、ノックアウトラウンドの試合を開催することができるのかどうか、決勝戦がニューヨークかダラスに絞られているようだが、まだ決まっていない。この秋に行われるFIFAの現地視察により決定する模様だが、そのような事は視察をしなくても決められるので、本当はまだ決目ないだけと思われる
今回のFIFAワールドカップで画期的なのは、開催都市の予算問題を解決するために「開催都市サポータープログラム」が導入されたことだ。FIFAや大会のマークとは別に開催都市独自のマークを作成し、それをスポンサーに販売できる。これまでの大会で認められなかった開催都市独自のスポンサー制度で開催都市がスポンサー収入を得ることができる。しかしながら、FIFAや大会のスポンサーとの競合は許されず、必然的にスポンサーになれるカテゴリーは限られており、収入も限定的なものとなると見込まれる。しかも、開催都市サポーターに与えられるチケットやホスピタリティの権利は、まだ決定していない。これも、大会全体のチケッティングやホスピタリティーのプログラムを決定しなければ、開催都市サポーターへの割り当てできないからだろう。
だが、開催都市サポーターの販売は始まっており、カテゴリーをめぐってはFIFAと開催都市の間で問題になっているようだ。だが、これについては当然のことながら開催都市が自由にスポンサーを選べるわけではないので、開催都市側の理解不足だ。
いずれにせよ、この状況は大会まで続くのが常だ。