ベートーベンの残された髪の毛をDNA鑑定した研究が、Current Biologyと言う雑誌に掲載されたようだ。その雑誌は直接読んでいないが、新聞の記事によると、残された髪の毛のDNAから様々なことがわかったと言う。
1827年にベートーベンが亡くなる際に、友人や知人がベートーベンに頼んで思い出のために、彼の髪の毛を切り取ってもらったそうだ。今回の研究は1994年にベートーベンの髪の毛がサザビーズのオークションにかけられたことがきっかけになっている。
この髪の毛をアメリカ・ベートーベン協会が購入してサンノゼ大学のベートーベン研究センターに展示されている。この髪の毛は、ベートーベンの信奉者のヒラーが、ベートーベンの死の直前に切り取ったものだとされてきた。この髪の毛がきっかけで、ベストセラー「ベートーベンの髪」が2000年に出版され、2005年にはドキュメンタリー映画にもなっていると言う。どちらも読んでも見てもいないから、このことは知らなかった。
その後、この髪の毛の分析を行った米アルゴンヌ国立研究所によれば、髪の毛から通常の100倍もの高濃度の鉛が発見され、研究者たちは、ベートーベンは鉛で毒殺されたのではないかと推測した。
そして、2014年から研究者が、古いDNA分析の技術が進歩したことを受けて、ベートーベンの髪の研究を開始した。アメリカ・ベートーベン協会の協力を得て、8本のベートーベンのものと言われる髪の毛を購入した。その中の1本は、サザビーで落札されたヒラー由来のものだ。
この8本の髪の毛のDNA鑑定の結果、サザビーで落札された髪の毛は、東方系ユダヤ人の女性とのものとわかった。研究者は、ベートーベンの髪の毛を手に入れたヒラーが息子に贈っている。その後、何らかの理由で、その髪の毛が破壊されたために、息子が、配偶者の髪で代用したと考えている。その息子の配偶者はユダヤ人だったからだ。これで、ベートーベン毒殺説は消えた。
残りの7分のうち1本はDNA鑑定ができなかった。残された6本のうち5本が同一のDNAを持っていた。そして、最後の1本は全く違うDNAを持っていた。このことから、出所が違うベートーベンの髪の毛とされる5本の毛が同一のDNAを持つということで、ベートーベンの髪の毛に間違いないと研究者たちを判断した。
ベートーベンは肝硬変で死んだことが知られている。これについては、今回の研究で、研究者たちは、遺伝的に肝硬変になりやすいDNAの変異を発見している。また、髪の毛からはB型肝炎のDNAの痕跡が発見され、B型肝炎に感染されていたこともわかった。B型肝炎に感染すると、4分の1の人が、最終的に肝硬変や肝臓癌になるそうだ。
B型肝炎は、セックスや注射針の共有、出産時に感染することが知られており、研究者たちはベートーベンが出産時にB型肝炎に感染した可能性を疑っている。
さらに今回の髪の毛のDNA鑑定により別の事実もわかった。ベートーベン自身は結婚せず、子供も残していない。だが、現在ベルギーにベートーベンの共通の祖先の一族の子孫が住んでいる。その子孫たちからDNAの提供を受けて調べたところ、ベートーベンはその子孫たちと遺伝的に関係がないことが明らかになった。
これについては、研究者たちは、ベートーベンの父方で婚外恋愛があったことを推測している。ベートーベンの父親は洗礼記録はなく、祖母はアルコール依存症依存症だったことが知られているそうだ。そして、ベートーベンの祖父と父親は、難しい関係だった事実も確認されているらしい。このことから、ベートーベンの父親は、祖父とは違う父親から生まれた可能性を推定できるそうだ。アル中で洗礼記録がないことからは飛躍にも思えるが、そういうことになると研究者が言っているので、ここはそうしよう。
研究者は別の風説も挙げている。ベートーベンがフリードリヒ・ヴィルヘルム2世、あるいはフリードリヒ大王の隠し子であると言う噂が流れたときに、ベートーベン自身はそれに反応しなかったと言うことだ。これも、事実ではなく伝聞だから研究に含めるのも、どうかとも思う。
さらに別の話題もある。最も重要かもしれない。ベートーベンの難聴は有名だ。20代半ばから始まり、晩年の10年間はほぼ耳が聞こえなかった。その中でたくさんの名作を作曲した事はよく知られてる。
ベートーベンの髪の毛から、いくつかの事実が判明したが、ベートーベンの難聴の原因については、はっきりとわかっていない。B型肝炎が原因である可能性もあるが、明快な答えは得られていないようだ。難聴の原因は、確定できないのかもしれない。実際に、ベートーベンの死後に解剖されたが、難聴の原因は発見されていないそうだ。
ベートーベンの髪の毛からは、この歴史上の偉人についての様々な事実が分かった。これは、明らかに由来がはっきりした髪の毛のようなDNAを含むものが残ってたからだ。だから、このような研究ができた。他の歴史上の偉人についても由来がわかるようなDNAが取得できるものが残っていれば面白いことがわかるのにと思う。
このような古いDNAから研究すると言う記事を読んでいると、DNAつながりでジュラシックパークの恐竜について考えてしまった。あのジュラシックパークと同じことが可能だとして、将来的には、もし望めばだが、ベートーベンと全く同じDNAを持つ人間のクローンが作り出される可能性がある。ただし、その作り出されたクローンは、ベートーベンと同じような作曲の才能があるかどうかはわからない。しかし、才能や能力は遺伝による部分が大きいとすると、偉大な作曲家になる可能性もないわけではない。特にベートーベンが育ったような宮廷音楽家の家庭のように、音楽で囲まれた環境で育つとその可能性も高まる。
DNA研究の記事を読んで、雨が降っていて散歩に出かけられないので、そんな妄想していた。