インターネットビジネスの歴史は、インターネットの入り口をめぐる争いであった。ブラウザのNetsapeとInternet Explorerが、初期のインターネットの入り口をめぐって争った。その後、Yahoo!が手作業でインターネットのディレクトリを作って、ポータルという言葉が生まれた。この時代には、数多くのポータルサイトが、様々なコンテンツを用意して争っていたものだ。
そして、入口の争いの中心は検索に移っていった。たくさんの検索エンジンが、インターネットの入り口をめぐって争ったが、最終的に勝ち残ったのはGoogleだった。そして、今やその検索エンジンの収益をもとに、インターネットビジネスの中心にGoogleがいる。世界の検索の90%を握り、その検索連動型広告が主な収益源となっている。
検索エンジンとして始まったGoogleだが、その後、ウェブブラウザのGoogle Chromeをリリースして、これも60%を超えるシェアを持つ最大のブラウザとなっている。動画も、買収したYouTubeが中心となって、インターネットビジネスといえばGoogleという状況が生まれた。これも、すべて検索戦争に勝利したことから始まっている。
インターネットの普及から約30年。今やGoogleがブラウザも検索も独占していると言って良い状況にある。そこに検索の変わるものとして、チャットボット型の生成AIが登場し、次の検索がどうなるのか、つまりインターネットの入り口がどうなるかに注目が集まっている。
インターネットの入り口、つまり情報にアクセスする方法が重要な役割を果たしていることは言を俟たない。生成AIの登場は、Googleの独占に穴を開け始めた。
そして、新しいブラウザのThe Browser CompanyのArcブラウザが、アプリ版のArc Searchを公開した。これがインターネットビジネスのパラダイムを大きく変えるかもしれない。Arc Searchは、従来の検索エンジンに頼ることなく、直接ユーザーに情報を届けることを目指している。これは、これまでのインターネット利用の新たな転換点となるかもしれない。
しばらく前から、パソコンでは、ブラウザのArcも試してきた。数多くのブラウザがあり、メジャー以外ではBraveなども試している。その中では、Arcの洗練されたインターフェイスが好きなので、時々使っている。GoogleChromeやEdgeと同じChromiumをベースなので機能拡張も同じように使えるからだ。とはいえ、メインはSafariとChromeだ。そこに、iPhoneのアプリとして、Arc Searchが公開された。
従来の検索エンジンがリンク一覧を提供するのに対して、Arc Searchは「Browse for Me」機能を通じて、関連するウェブページを読み込み、一つのカスタマイズされたウェブページに情報をまとめることができる。つまり、複数のウェブサイトを訪問して情報を得る手間を省き、効率的に必要な情報を入手できることになる。また、広告やトラッカーのブロックもないので快適だ。ただし、まだ日本語対応していないので、日本語の検索では通常の検索結果が表示される。
検索エンジンは、GoogleやBing、Duck Duk Goに加えてPerplexityも選べるのでAI検索ということになる。
従来の検索エンジンは、リンクとページを表示するだけだ。だが、Arc Searchは、現時点では英語のみだが、Arc Searchが情報を編集して集約的に表示できるので、インターネットの利用方法を効率化することができる。しかも表示される情報は、見栄えが良くて使用感も快適だ。
今後起こることは、Arc SearchがGoogleへの脅威となるかもしれないことだ。これが起こると、Googleの検索結果をバイパスする方法が簡単になる。Arc Searchでは実際に検索結果をクリックする必要がなくなるため、Googleの主な収益源である検索連動型広告を迂回することができるようになる。これによりGoogleの広告収入が減少する可能性がある。
それから、AIが、求めている情報を直接表示することができることだ。「Browse for Me」のような機能では、ユーザーの検索クエリにAIが直接回答することで、GoogleのWebページインデックスへの依存が低減する。Arc Searchの使用が増えれば、検索量の大きなシェアを奪取し、Googleの広告収入に打撃を与えるかもしれない。
そして、Googleだけではなく、多くのメディアやコンテンツプロバイダーにも影響が考えられる。情報を検索しているコンテンツを様々なサイトを要約することで、実際にそれらのサイトを訪問する必要がなくなり、広告収入源であるトラフィックが減少するからだ。これには、著作権の問題もあり、未知の要素も大きい。Arc Search が成功すれば、そんなことも起こるだろう。
メディアやウェブサイトの運営費用は、多くの場合、広告収入によって賄われている。この収入源が減少すれば、ウェブサイトの維持が困難になり、インターネットの多様性や情報の自由な流通が脅かされる可能性もある。このようなことも考えなければいけないだろう。
Arc Searchのような今までにないサービスは、ユーザー体験を向上させる一方で、現状のウェブエコシステム全体に対する影響もありえる。だが、これも民主主義の原則からは、ユーザーが求めるサービスが正義であらねばならない。個人的には、Arc Searchが、全機能で日本語対応を早くしないかと考えている。