イーロン・マスクのやることは常人には理解が難しい。今回は、彼のX(旧Twitter)で、フォロワー数が特定の基準を満たすアカウントに対してプレミアム機能を無料で提供するという発表を行った。具体的には、認証済みアカウント2,500人以上にフォローされたアカウントはプレミアム機能を、5,000人以上のフォロワーを持つアカウントにはプレミアム+機能を無料で提供する。この動きは、収益化の方法において大きな変化を意味すると思われる。
まず、プレミアム機能の内容を整理すると、プレミアムとプレミアム+は、どちらも投稿の編集ができることや長文投稿・長尺動画のアップロードも可能だ。また、どちらも人工知能機能のGrokAIへのアクセスができる。広告については、プレミアムでは広告が削減され、プレミアム+では、完全な広告なしとなる。
Xは、マスクの買収以降は特にユーザー数の減少と広告収入の低下に苦しんでいる。2023年のユーザー数は2億4960万人で、これは前年比約2%減だ。広告収入については、2023年全体で22億7000万ドルの前年比が約7%減となっている。
このユーザー数と広告収入の減少の要因は、マスクの買収以降にも多くの競合プラットフォームの台頭があるし、問題のあるアカウントをマスクが復活させたことによる嫌がらせやヘイトスピーチの増加で、ユーザー離れが起こっていることだ。
このようなユーザー数と広告収入の減少に対応するために、プレミアムとプレミアム+のサブスクモデルの導入で有料課金に舵を切ったと個人的には考えていた。しかし、今回の無料化は、その見方を否定するものだ。
では、新施策の狙いは何だろうか。マスクは、従来の課金モデルではユーザーの獲得と維持が難しいと判断したのかもしれない。そのために、インフルエンサーと呼ばれる影響力のあるユーザーを優遇することで、多くのフォロワーを持つユーザーがプレミアム機能を利用することで、他のユーザーもサブスクに加入する意欲を高めると期待していると推測する。
しかし、この路線変更にはいくつかの懸念がある。まず、プレミアム機能の無料化は、目指していた収益化では逆効果になる。プレミアム機能は重要な収益源として導入したはずだ。これを無料化することで、直接的な収益が減少する。さらに、今回の発表によれば、無料プレミアム機能を受けるためのフォロワー数の基準はかなり高く、多くのユーザーには該当しない。したがって、実際には、今回の施策が多くのユーザー層に影響を与えるかどうかは不明だ。
また、この施策はプラットフォーム内でのクリエイターを活性化させる狙いがあるが、限られたユーザーだけに恩恵が与えられるため、一部のクリエイターに対する不公平感を生む。結果的に、プラットフォーム全体の健全性を損なう恐れがある。さらに問題なのは、このフォロワー数を満たすために、悪質かつ幽霊的なアカウントが増加することも否定できない。
今回の施策は、あまり例を見ない画期的な方法に思えるが、実際のところ、その影響と収益化への効果については未知数だ。Xの将来について、さらに不透明感が強まった。