「偶然はどのようにあなたを作るのか」

by Shogo

今年は、あまりミステリーやノンフィクションなどの本を読まなかった。もっぱら、仕事関連以外では歴史書ばかり読んだ。自分の歴史が終わろうとしているからなのか、歴史に興味が出てきて、歴史書、特に地中海周辺の歴史、それから地球全体の歴史などの本を何冊も読んだ。日本の歴史についてあまり読んでいない。大学受験でそれなりに勉強したから、まだある程度覚えているからだ。だが、高校時代に世界史は授業では寝ていた。だから中東問題にしてもの歴史や宗教的な対立のことを理解しないと実感したからだ。

しかし、最近にしては珍しく、リアルの本屋で本を衝動買いした。。タイトルに引かれて手に取った本の冒頭に興味を惹かれからだ。この「偶然はどのようにあなたを作るのか」は最近では珍しく紙の本で買った。

『偶然(FLUKE)はどのようにあなたを作るのか』ブライアン・クラース著は、マルコム・グラッドウェルやトーマス・フリードマンの本のように感じて、あまり考えもしなかったことに目を開かせてくれた。

その冒頭は、たまたまの偶然が京都を原爆から救ったと言う内容だ。この書き出しからしてノンフィクションの本ではなく、まるでミステリーを読むようにページをめくる手が止まらず一気に読み終えた。

1945年、春。ワシントンD.C.の陸軍省の一室で、ある重大な決定が下されようとしていた。マンハッタン計画の責任者たちが、日本への原爆投下目標リストを作成していたのだ。そのリストの筆頭、つまり第一候補に挙げられていた都市は、広島でも長崎でもなく、「京都」だったと言う。

しかし 当時、陸軍長官の職にあったヘンリー・スティムソンは、そのリストを見るなり、猛烈に反対したそうだ。「京都だけは外せ」と。彼はトルーマン大統領に直談判し、強硬に京都をターゲットから除外させた。それは、 軍事的な戦略理由では無かった。戦略的理由なら、日本の精神の中心と言っても良い京都を完全に破壊することで、日本人に戦争遂行意思を失わせるという効果があると考えられれていたからだ。

だが、その19年前に、若き日のスティムソンが妻と共に京都を訪れ、その美しい寺社仏閣や文化に魅了された記憶があったからだという。もし彼が、休暇に別の場所へ旅行に行っていたら、あるいはその時京都で雨が降っていたり、不運な出来事があって印象が悪かったら、今の日本の歴史は全く別のものになっていたかもしれないということが丁寧に書かれている。

ブライアン・クラースによる『偶然(FLUKE)はどのようにあなたを作るのか(Fluke: Chance, Chaos and Why Everything We Do Matters)』は、こうした「偶然の連鎖」に光を当てた一冊だ。

クラースは、社会科学者らしい分析と、ジャーナリストとしての物語る力で、長崎への原爆投下も記述している。当初は小倉が目標だった。だが当日、雲が視界を遮ったため、爆撃機は第三候補の長崎へ向かったという。また、ザンビアでクーデターが失敗した理由を調査したクラースは、民主主義の強靭さや制度設計が理由だったことを期待していた。ところが真相は、将軍のズボンの縫い目がほつれて逃走を許したという、あまりに人間的な偶然だった。歴史は、教科書が示す必然の積み重ねではなく、無数の偶然が絡み合う混沌の産物ということを発見してゆく。​

このようなことを、この本を読んでいて、世界が偶然に支配されていることを思い知らされた。もっとも事例に挙げられているものは、無数にある事例の中から偶然が大きく作用した出来事だけが収集されていると言うこともあるのは事実だろう。

しかし、歴史に興味を持って進化の本などを読むと数億十年年単位の様々な偶然が、人類も含めて様々な生物を生み出してきたのも事実だ。いくつかの本では、このような進化の歴史を奇跡の積み重ねと言うふうに表現をしていた。つまり、偶然がなければ、私たちも存在していない。

だから、自分の人生を、最初から巻き戻してもう一度再生したら、同じ結末になるのかというように考えた。答えは、「否」だろう。たかだか数十年の自分の人生でさえ、無数の選択と偶然が枝分かれしながら続いてきた。

クラースは「人生は自分次第」という個人主義的な幻想を解体した。私たちは、自分の成功を実力のおかげと考え、他者の失敗を怠慢のせいにしがちだ。しかし現実には、どこで生まれたか、誰に出会ったか、いつ行動したかで人生の大半を決定づけていると結論づけている。

その意味で、努力するものだけが、常に正しいという、昨今の自己責任論にも一石を投じる本だ。

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