新型コロナウィルス感染症が収束しつつある今年は、ロシアのウクライナ侵略に端を発して、インフレやエネルギーの問題が続き、株価の低迷、暗号資産等の価値の下落など様々な出来事が起きている。しかしスポーツの世界では別の風が吹いているようだ。
Appleは、アメリカのプロサッカーリーグのMLS と25億ドル、10年という、今までとは別次元試合の配信サービスの契約を行った。またViacom18は、クリケットのプロリーグのインディアン・プレミア・リーグと60.5億ドルの巨額の契約を結んだ。この契約にはテレビ放送と配信サービスが含まれており、配信サービスだけの権利金は30.5億ドルだと言う。
これらの契約は、メディアの大きな地殻変動を反映している。つまり、エンターテイメントコンテンツのメディアの中心であったテレビが、配信サービスにその王座を譲りつつあると言うことである。今後の主要メディアである、配信サービスの盟主の地位を得るため、あるいは、そこから脱落しないために多くの配信サービスを行っているIT企業やメディア企業は、スポーツのコンテンツに巨額の契約金を払って、Appleのように10年契約のような長期契約を結んでいる。これは現在の景気動向に関係なく、長期的にスポーツコンテンツの価値が高まると見込んでのことだ。
放送権だけでなく、同様にスポーツチームも高い金額で取引されている。NFLのデンバー・ブロンコスが46億ドル、サッカーのチェルシーFCが32億ドル、ACミランも13億ドルと、これまでの最高額で売買が成立している。これは著名なスポーツチーム、サッカーであれば世界的なコンテンツとしての価値があり、デンバーブロンコスのようにNFLのチームはアメリカ国内では圧倒的なコンテンツ価値を持つからだ。
スポーツチームは多人数の観客を動員でき、放送権収入が期待できる事はもちろん、それだけではない。メディアやインターネットに広告が溢れかえり、その有効性に疑問がつく中で、広告主にとってはスポンサーシップという手法についてはまだまだ人気が高く、人気の高いチームはスポンサーシップ収入を期待できるからだ。また、そのマークやマスコットなどの知的財産権のマーチャンダイジング収入もかなりの額に上ることが多い。
このようなことを考えるとスポーツチームの価値は、経済環境はどのように変わろうと、収益が見込める投資であり、その価値が近い将来著しく毀損されることのない安全な資産となると考えられているのだろう。
一方日本に目を向けると、Jリーグチームはオーナーのチェンジが度々行われているが、プロ野球については楽天やDeNAの数少ない例しかない。これはプロ野球のオーナー会議に、非常に閉鎖的な体質があるからだと思われる。これをもっとオープンにして投資を呼び込めば、日本で最も人気の高いプロスポーツリーグはさらに活性化すると思われるがどうなのだろうか。