AI訴訟事例

by Shogo

AI技術の急速な進化により、多くの分野でその利用が拡大してきた。そして、ChatGPTの登場以降は一般のユーザーがA Iツールを使うことが爆発的に広がった。この技術進化は、著作権法との間で新たな緊張関係を生じさせている。特に、AIツールが著作権保護された素材を使用して学習した上で、新しいコンテンツを作成するために、著作権侵害の問題が議論されているのだ。このために、アメリカではたくさんの訴訟が起こされた。

主要な訴訟例

著名な小説家によるOpenAIに対する集団訴訟

  • ジョン・グリシャム、ジョナサン・フランゼン、エリン・ヒルダーブランド、ジョディ・ピコーを含む著名な小説家たちが、OpenAIに対する集団訴訟に参加している。
  • この訴訟は、OpenAIのChatGPTが著作権保護された書籍をトレーニングに使用し、それによって派生作品を生成しているという主張に基づいている。

OpenAIとMetaに対する著名人の訴訟

  • 作家・女優のサラ・シルバーマンなどの著名人が、自身の著作がAIプログラムのトレーニングテキストとして「取り込まれた」として、MetaとOpenAIを訴えた。
  • AIシステムによる著作物の無断使用とその創造物の生成が著作権侵害に当たるかどうかが争点となっている。これは、ジョン・グリシャムなどの集団訴訟と同じような訴訟となっている。

GitHub Copilotの集団訴訟

  • 複数の匿名のコンピューター・プログラム開発者が、GitHub、Microsoft、およびOpenAIに対する集団訴訟を提起した。この訴訟は、GitHubのAIのCopilotツールが、既存のコンピューター・コードを無断に利用しているということが提訴の理由となっている。
  • プログラミングにおけるAI支援ツールの使用が、著作権法に違反する可能性があるかどうかが争点となっている。

アーティストが画像生成AIを提訴

  • サラ・アンダーソンなどのアーティストが、Stability AI、Midjourney、およびDeviantArtを著作権侵害で訴えた​​。
  • AI画像生成ツールがアーティストの作品を使用していることが著作権侵害に当たるかどうかが争点になる。

NYT対OpenAIおよびMicrosoft:

  • ニューヨーク・タイムズは、OpenAIとMicrosoftを著作権侵害で訴えた。この訴訟は、ニューヨーク・タイムズの数百万の記事が無断でAIのトレーニングに使用されたと主張している​​。
  • AIツールが著作権保護された素材を使用して新しいコンテンツを作成することに対する著作権侵害の主張だ​​​​。

これらの訴訟は、AIツールやAIシステムによって、著作権保護された既存のコンテンツが利用・学習されて新しいコンテンツが生成されることに着目している。

例えば、文章生成AIが小説などの著作物全文を学習データとして利用し、元の作品を要約したり、元の作品に酷似した新しい作品を生成することが可能となっている。この場合、元の作品の著作権が侵害されたと解釈される余地があるということだ。

一方で、AI自体の創作物には独自の創作性が認められ、著作権法上保護されるべきだとする意見もある。しかし、現時点では著作権は、人間が「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と規定されているために、AIツールを使ったユーザーが著作権者なのかという議論になるのだろう。

このように、AI技術の進展によって、従来の著作権法の解釈が追い付かないグレーゾーンが生まれている。今後、裁判例の蓄積や法改正などによって、この分野の法的な整理が進められることが期待される。 今後、これらの訴訟がどのように解決されるかによって、AI技術の開発とその利用範囲が大きく左右されることになる。

日本ではどうかを調べてみると、日本の著作権法において、AIツールやAIシステムが著作権保護されたコンテンツを利用することに関して、以下のような規定が設けられている。

  • まず、AIによって生成された著作物の著作権については、2020年の著作権法改正により、プログラムの著作物と同様に保護対象とされた。
  • 一方で、AIの学習・トレーニングのために大量の著作物を利用することに関しては、制限が課されている。
  • 著作権者の許諾なく複製が認められるのは、個人的使用や引用の範囲内に限られる
  • 学習用データセットの作成には、著作権者の許諾が必要と考えられている
  • トレーニング済みモデルの公開利用には、利用者による二次的著作物の創作が予定されている場合、著作権侵害の可能性がある

つまり、学習用データの大量複製や、トレーニング済みAIモデルの公開利用にあたっては、著作権者の許諾が必要不可欠とされている。AI開発者とコンテンツ保有者との間で適切なライセンス契約が締結されることが望ましいと規定されている。このような規定のために、例えばニューヨーク・タイムズの訴訟の例で考えれば、ニューヨーク・タイムズの勝訴となると思われる。ただし、アメリカでは、日本にはない著作権法上の規定の「フェアユース」(fair use)規定のために、アメリカでは、その点について争われるのだろう。

フェアユースとは、著作権法の下で認められた、著作物の限定的な利用形態のことを指す。具体的には以下のような特徴がある。

  • 著作権者の許諾なく、著作物の一部を利用できる
  • 営利目的でなく、批評、コメント、報道、教育、研究などの目的での利用が多い
  • 利用の目的と性質、著作物の量と実質性、市場への影響の観点から、個別に判断される

フェアユースの典型例としては、書評や論文での引用、ニュース報道での使用、パロディなどがあげられる。判断基準が明確でないためグレーゾーンも多く、今後はAI著作権裁判例の蓄積によって範囲が徐々に明らかにされていくのだろう。アメリカでは、AI生成コンテンツの利用との関係でも、フェアユースについて、さらなる議論が必要となった。

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