長い間生きていると驚くようなことが時々ある。今回の驚きは、一般の人には関係ないかもしれないが、広告業界から生きてきた身からすれば驚くようなことだ。例えていえば、日産がホンダを買収するといようなことだ。
米国の広告大手オムニコム・グループが、インターパブリック・グループ(IPG)を買収することで合意した。この買収は、広告業界最大手の誕生を意味し、両社の統合がもたらす影響や課題が注目される。
IPGと言えば、一時は世界最大の広告会社だったこともある。そんな会社が買収されるとのは珍しくもないが、環境の変化や会社そのものの経営の巧拙もあるのだろう。時間の流れを感じる。
オムニコムは、株式交換による取引でIPGを買収する。IPG株主は1株につきオムニコム株0.344株を受け取る形となり、取引総額は約133億ドル(約2兆円)に上る。この取引が完了すれば、新会社は年間売上高250億ドル超を誇り、現在トップのWPP(約189億ドル)を遥かに大きく上回る世界最大の広告会社となる。
統合後、新会社はオムニコムの名称を維持し、ニューヨーク証券取引所でOMCのティッカーシンボルで取引されるそいだ。
IPG傘下で有名な会社は、マッキャン・エリクソンで、日本ではマッキャン・エリクソン博報堂として合弁で営業しており、最大手の外資系広告会社だ。前に見たテレビドラマの「Mad Men」は明らかにマッキャン・エリクソンもモデルになっていた。主人公が最後に、コカコーラの広告を作るからだ。マッキャン・エリクソンと言えば、コカコーラを連想する。それほど長い間、世界中でコカコーラを担当している。
今回の買収劇は、広告業界の変革と混乱の中で起こったのだろう。その意味では必然的な結果で、驚くようなことではないのかもしれない。デジタル広告が従来のアナログ広告を追い越し、FacebookとInstagramの親会社であるMetaやGoogleの親会社であるAlphabetなどの巨大テック会社が、かつて伝統的な広告代理店が支配していた領域に進出してきたことが背景にある。つまり、広告とテクノロジーは表裏一体のものになっている。
また、テクノロジーとコンサルティングのアクセンチュアも、多くの広告会社やクリエイティブ会社や関連企業を買収し、広告代理店の領域では大きな存在感を持っている。つまり、広告問領域は、デジタルとインターネットの進展で、もはや、かつてのように独立した業種ではなくなっているということだ。
オムニコム、インターパブリック、WPP、ピュブリシスや電通のような広告会社は、デジタルテクノロジー企業へと変貌を遂げることで、この変化に適応してきた。その手段として、買収が頻繁に用いられてきている。今回の買収は、その文脈で巨大資本とデジタル技術やインフラがマーケティング分野でも重要になっていることの表れだろう。
インターパブリックは1930年に広告代理店のマッキャンとエリクソンが合併して設立され、当時は世界最大の会社だった。マッキャン・ワールドワイドやメディアバイイングのIPGメディアブランズなど、有名な広告会社を所有している。
オムニコムは1986年に、BBDOワールドワイドを含む3つの広告代理店の合併により設立された。TBWA、OMD、デジタルコマース企業のFlywheelなどの代理店を所有している。こちらも、巨大広告会社で、WPPが世界一になるまでは、その地位にあった。
この合併は、競合他社であるWPPやPublicisなどの戦略にも大きな影響を及ぼすと考えられる。今回の買収のような業界の再編成やテック企業による広告会社の買収はさらに起こることが予想される。