「売らない店」

by Shogo

日経に大丸松坂屋が「売らない店」を10月より出店すると言う記事が出ている。「売らない店」は、すでに丸井が始めているので、珍しいことではない。しかし、大手百貨店が同様の取り組みを始めたと言うことで記事になったようだ。

どちらの「売らない店」も、D2Cブランド(ダイレクト・ツー・コンスーマー)の展示だ。

D2Cブランドは、メーカーやブランドが小売を通さず、自ら直接、エンドユーザーに販売するビジネスモデルで、単なる直販というより、強いブランド戦略をもち、独特の世界観を持つ企業だ、

大丸松坂屋では、D2Cブランドが展示を行い、大丸松坂屋の店員が商品説明は行うが、販売はしない。すでに「売らない店」を展開している丸井でも、D2Cブランドの「Fabric Tokyo」のコーナーでは、採寸とサンプル生地の確認はできるが購入はできない。客は、採寸結果とサンプル生地の確認をもとに、自分でオンラインで注文する。

これは、「ショールーミング」と呼ばれる実店舗の販売能力の喪失と言う現象を説明したマーケティング用語を、実際にビジネスにしたと言うことになる。「ショールーミング」では、実店舗は販売しようとしているが、商品価格等をオンラインで調べた客が、実際の商品の質感や手触りを調べるためだけに来店すると言う購買のスタイルと言う。自らの販売努力がショールームとして使われてしまうという悲しい現実を示す用語だ。

商品の価格や手軽さと言う面で、販売がオンラインに移っていく現状の中で、実店舗を持つ百貨店が、この「ショールーミング」に積極的に関与すると言うのも不思議な現象だ。しかし実態は不思議を越えて、現実の厳しさを示している。つまり実店舗は既に販売すると言う能力を失いつつあり、D2Cブランドのようなオンライン企業のショールームを運営するサービス業に転換したと言う事になる。販売業から、B2Bのサービス業への転換だ。

もちろん丸井にしても大丸松坂屋にしても、店舗の全てが「売らない店」になっているわけではない。戦略としては、実店舗で見られないD2Cブランドの商品を展示し、集客を行い、自らのブランドイメージに構築に利用する目的があるものと思われる。当然目的は、他の売る店の販売増である。

オンラインショッピングが普及するにつれ、実店舗を持つ企業は、厳しい状況に追い込まれる。「売らない店」のような形で、実店舗を持つ強みを生かした別のビジネスを考えていく必要がある。その1つが、D2Cブランドに対する「売らない店」としてのショールーミング・サービスだ。同様のオンラインと実店舗の隙間に起こるビジネスチャンスをどう見つけるか、百貨店の今後の挑戦だ。

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