「ムーンショット」

by Shogo

アメリカのバイデン大統領が、25年以内にがんよる死亡数を半減するとの計画を発表した。この計画は、「がんムーンショット」と呼ばれ、5年前のオバマ政権時代に開始されたものを強化する発表だ。

バイデン大統領は、がんについては個人的に関心を持っていると言う。それはご子息が脳腫瘍で亡くなっているからだ。このことから、5年前当時のオバマ大統領が、当時のバイデン副大統領をトップに、計画に着手した。オバマ大統領は、この計画を、一般教書演説で、「ムーンショット」として説明している。この計画は、普通なら10年かかる、がんに関する研究を5年で終わらせる内容だった。当時18億ドルをかけることが議会でも承認され、実行中だ。すでに10億ドルが240の研究に投下されている。

今回は、この計画に、25年以内にがん死亡を半減と言う明確な目標が掲げられている。現時点では計画の詳細や予算承認スケジュールなど具体的な内容については発表されていない。なんとなく、支持率下降に悩むバイデン政権が目眩ましで、大掛かりな発表セレモニーをホワイトハウスで行っただけのようにも見える。ただそのような取り組みをする事は、アメリカ国民だけではなく、全人類にもその恩恵が行き渡る可能性もあり、早く具体化してもらいたいものだ。

このムーンショットだが、ケネディ大統領が当時、宇宙開発においてソ連に遅れをとっていた状況を踏まえて、1960年代の末までにアメリカ人を月に送ると発表したことに由来している。

非常に困難で、もし実現できれば大きなインパクトをもたらす挑戦のことを、それ以来、アメリカでは「ムーンショット」と言うことになった。実際にアポロ計画において開発され、我々の日常に行き渡ったものは数多い。代表的なものは病院のICUと言われる。人間を月面に送るために、人間の体を遠隔モニターしながら月飛行計画を進めた技術が、病院の治療に転用されたと言う。その結果、世界中で多くの人命を救ってきた。

日本ではそのような意義のある挑戦計画をあまり聞いたことがない。あるとすれば、貧乏人は麦を食えと発言した池田首相の「所得倍増計画」くらいだ。そうと思って検索をすると、内閣府が「ムーンショット」を発表していた。そこには以下の9つの目標が掲げられている。サイトから引用すると以下のとおりだ。

目標1:2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現

目標2:2050年までに、超早期に疾患の予測・予防をすることができる社会を実現

目標3:2050年までに、AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現

目標4:2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現

目標5:2050年までに、未利用の生物機能などのフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出

目標6:2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現

目標7:2040年までに、主要な疾患を予防・克服し100歳まで健康不安なく人生を楽しむためのサステイナブルな医療・介護システムを実現

目標8:2050年までに、激甚化しつつある台風や豪雨を制御し極端風水害の脅威から解放された安全安心な社会を実現

目標9:2050年までに、こころの安らぎや活力を増大することで、精神的に豊かで躍動的な社会を実現

内閣府「ムーンショット型研究開発制度」

9つと言うあたりが、微妙な感じで好ましく感じる。私などがこれを書くと、もう一つ作って10の目標にしてしまいそうだ。しかし、すべての目標について読んでみると、それぞれ素晴らしいことが書かれているが、イメージが湧きにくい。頭の良い人が書いているので、誰もが同じような理解力を持っていると思っているのだろう。だが、私には何を具体的にするのか意味がわからない。いつまでに月に人類を送るとか、25年でがんによる死亡数を半減させるとか、もう少し具体的に書けないものなのだろうか。

それで言うのであれば、なぜ内閣府はこの「ムーンショット」と言う言葉を使うのだろうか。確かにケネディ大統領以来アメリカでは「ムーンショット」と言う言葉は大きな挑戦の意味として一般的に使われる言葉になっている。しかし、日本において決して一般的な言葉ではない。

政治が未来のビジョンを発表する際に、「ムーンショット」と言うような、聞いてもわからない言葉を使って方向性を示されても、全く意味をなさない。その一点を見ても、掲げられている9つの目標も言葉遊びだけのようにも見えてくる。難しい挑戦と言うのは、多くの人々の献身的な努力によってやっと実現できるものだ。国民全員を同じ思いで、その方向に向かせる必要がある。それを「ムーンショット」と言う、わけのわからない言葉で国民の思いを結集する事はできない。

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