強いサイトが、さらに強くなる

by Shogo

Appleはユーザのプライバシー保護に力を入れている。その理由の一つは、Appleが広告事業を行っていないからだ。iPhone、 iPad、 Macで使われるブラウザのSafariは、2017年にIntelligent Tracking Prevention(ITP)を導入して、第3者クッキーを制限し始めた。そして2020年には完全に第3者クッキーをブロックしている。これにより、Safariでは、サイトを跨いでユーザーの行動を追跡できなくなっている。

さらに、 2021年には、iPhoneやiPadアプリによってインターネット上の行動を追跡されることについて、事前にユーザの同意を求める形に仕様を変更した。80%を超える多くのユーザーが、行動履歴の「共有しない」を選んでいると言う。

この結果、Appleのデバイスでは、ユーザの行動履歴に基づいて広告を配信すると言う、インターネット広告の仕組みは崩壊している。同様に、Googleも2023年半ばには、そのブラウザのChromeの第3者クッキーを完全に停止すると発表している。また、同様にスマートフォンのOSのAndroidでもiPhoneと同様にユーザの行動履歴の共有をユーザ本人の同意が必要な形に改める予定だ。この両者の第3者クッキーとスマートフォンの追跡の制限により、多くのインターネット企業を支えてきた広告ビジネスは変わろうとしている。

今まではFacebookやGoogleは、第3者クッキーにより得た、人々のオンライン上での行動履歴をもとに、広告配信を行ってきた。例えば、車のサイトを見たり、車に関する検索を行った場合には、そのデータに基づいて広告配信される。しかしそのようなユーザの追跡は、AppleやGoogleがブラウザとデバイスでの追跡をブロックできるようにすると全て無効になる。

プライバシーと言う観点からは、この2社の対応は望ましいものである。しかし一方サイトをまたいだ第3者クッキーの行動履歴により広告を販売してきたFacebookなどは販売確度の高い見込み客の特定が難しくなり、広告の効果が落ち、結果として広告の販売も落ち込んでいる。Facebookの親会社のMetaは、Appleのプライバシー仕様変更のために、2022年には売り上げが100億ドル(約12兆円)も減少する見込みだと言っている

しかし、サイトをまたいだ第3者クッキーが廃止されることになっても、個別のサイトがオンラインのユーザを認識するための第1者クッキーは今後も維持される。これがないと、ログイン情報やその他の設定が全て消えてしまうからだ。

この結果、多くのユーザを持つ企業やサイトは、オンライン上での他のサイトでの行動履歴が追跡できなくとも、自社のサイト内でのユーザの興味・関心の把握は可能なケースがある。その代表例は、Amazonだ。Amazonのサイトの中で、特定の商品の検索を行ったり、閲覧を行った場合は、その商品のジャンルに関心があるとして、認識できる。この人たちに広告を配信する事は、その商品の販売のために非常に有効な方法だ。

これはGoogleにも当てはまる。Googleの検索窓に打ち込んだ検索に基づいて、そのユーザに対して検索連動型広告にを配信する事は今後もできる。このため、AmazonやGoogleのような、多くのユーザを持つサイトや企業は、第1者クッキーにより自社サイトに訪問するユーザのデータを蓄積していく事は可能である。

その意味では、売り上げが100億ドル下がると言っているMetaも、Facebook 、Instagram 、WhatsAppなど自社のサービスを利用するユーザの情報を蓄積し、そのデータを基に広告に販売することが可能だ。それがまだできていないと言うだけのことであろう。実際Metaは多くのエンジニアを雇用し広告を販売するためのシステムの開発に取り組んでいると言う。

AppleとGoogleによる個人情報保護のための、第3者クッキーの廃止とスマートフォンの個人情報の保護対策は、皮肉なことに、巨大なサイトは、さらに巨大に乗っていくためのきっかけになる可能性がある。今後は、広告モデルの中小サイトは立ち上げも、運営も難しくなる。これが、インターネットが支える文化に大きな影響が出る。広告によって経営を支えて、自由に意見を発表したり、新しい文化・コンテンツを創造することができなくなるかもしれない。

Amazonは広告事業の売り上げを始めて公開した。2021年の、その金額は312億ドルとなり、広告の販売額としてはGoogleとMetaに次いで第3位。またアマゾンの事業収入としても、eコマースとクラウドコンピューティングに次ぐ3番目のの事業となる。今後、巨大なAmazonは、さらに巨大になる。

来年2023年半ばには、Googleが第3者クッキーを停止するために、巨大サイトが個人情報を蓄積し、広告のビジネスやインターネットの文化も変わっていく最初の年となる。

You may also like

Leave a Comment

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

error: Content is protected !!