インターネット広告業界は急速な成長を遂げてきた。デジタルマーケティングの進展により、多くの企業がインターネット広告に注目し、その予算を増やしている。世界の広告市場をみると、2022年にはデジタル広告が3,944億ドル(前年比13.7%増)となり、総広告費に占める割合も55.3%にまで拡大すると見込まれている。日本のデジタル広告市場も大きく成長しており、2022年にはインターネット広告が3兆912億円、マスコミ4媒体12広告が2兆3,985億円となり、両者の広告費が初めて逆転した2021年以降、その差が広がっている。
インターネット広告の成長には、6つの主要な理由がある。
デジタル化の進展
インターネットとデジタル技術の普及は、広告の形態を大きく変えた。特にスマートフォンの普及は、人々がメディア接触を根本から変えたと言って良いだろう。そして、スマホやタブレットを利用する人々の人数は、急速に拡大し、しかも従来のテレビやラジオの視聴者とは異なる消費傾向を持っている。企業はインターネット広告を通じて、より多くの消費者にリーチすることができるようになったとともに、スマホやタブレットでなければリーチできない消費者も増えている。
ターゲティングの精度
インターネット広告の大きな利点は、そのターゲティングの精度にある。インターネット広告は、ユーザーの興味や行動を分析し、個々のユーザーに合わせた広告を配信することができる。このパーソナライズされた広告は、従来の広告媒体にはない高い効果を発揮する。例えば、オンラインショッピングの行動履歴や検索履歴、ウエブサイトの閲覧履歴に基づいて、関連する商品の広告を表示することが可能となった。このような方法は、特定商品に関心を持つ消費者の注意を引き、購買につながる可能性を高める。
測定と分析の容易さ
インターネット広告の別の利点は、その測定と分析の容易さだ。クッキーや端末識別番号などを使ったユーザーの行動履歴追跡により広告のパフォーマンスをリアルタイムで把握し、詳細な分析を行うことができる。これにより、広告主はキャンペーンの効果を正確に把握し、必要に応じて迅速に調整を行うことが可能だ。例えば、クリックスルーレート(CTR)やコンバージョン率などの指標を用いて、広告のパフォーマンスを評価する。
コスト効率の高さ
インターネット広告は、従来のメディアに比べて低コストで実施できる。特に小規模企業やスタートアップにとって、限られた予算内で最大限の広告効果を発揮することが可能となっている。また、広告の配信は、視聴者の興味や行動に基づいて行われるため、無駄な広告支出を削減することもできる。
広告取引の運用型化
アドテク(広告技術)の進化により、リアルタイム入札(RTB)が主流となり、効率的な運用型の広告配信が実現した。ターゲットユーザーがWebページにアクセスした瞬間に入札する。これにより、広告主はターゲットに最も適したオーディエンスに対して、最適なタイミングで広告を表示させることが可能になった。運用型広告は、効率性、精度、スピードに優れ、インターネット広告全体の80%程度を占めるようになっている。
多様な広告形式
インターネット広告は、ビデオ、画像、テキスト、インタラクティブなコンテンツなど、多様な形式を選べる。これにより、広告主は、ターゲットとなる顧客に最適なメッセージを、より効果的な方法で伝えることができる。例えば、インタラクティブなビデオ広告は、消費者を引き付け、長い時間コンテンツと接触させることができる。
ソーシャルメディアの影響力
ソーシャルメディアの台頭は、新しいタイプの広告を生み出した。インフルエンサーを活用したマーケティングや、ユーザー生成コンテンツを利用したキャンペーンなどが、効果的な広告手法として注目されている。これらの方法は、従来の広告と比べてより個人的で、より信頼性が高いと考えられる。
このようにインターネット広告の成長には多くの理由がある。デジタル化の進展、ターゲティングの精度、測定と分析の容易さ、コスト効率の高さ、運用型化、多様な広告形式、そしてソーシャルメディアの影響力が、インターネット広告の急速な成長を後押ししている。今後もテクノロジーの進化と共に、インターネット広告はさらなる成長と進化を遂げることは間違いない。
しかしながら、このようなインターネット広告の強みは、一方で消費者の反感を買っていることも事実だ。
Statista Consumer Insightsは、5,400人の米国人(16-64歳)に、インターネット広告についての調査を2021年に行っている。この調査では、どのタイプのインターネット広告が特に迷惑だと思うかを尋ねている。調査結果によると、ウェブサイト上の音声付き動画広告が1位で、49%が迷惑だと答えている。2位は、音声無し動画広告で39%。皮肉なことに、広告業界では最も効果があると考えられている動画広告が上位となっている。これは、広告としての必要条件である「注意を引く」が動画広告では有効に機能するからと考えられ、広告業界としては、この調査結果が望ましい結果とも言える。
続く3位は、検索結果に基づくパーソナライズされた広告で38%が迷惑だと答えている。4位は、興味関心に基づくソーシャルメディアのターゲット広告の34%だ。これも、それだけ消費者の注意を奪うということで、効率の良さの裏返しと言える。
5位は、ストリーミングやポッドキャストの音声広告で32%。6位は、すでに購入した製品の広告の32%だ。音声広告も注意を引くことは間違いない。6位のすでに購入した製品の広告については、インターネット上の行動履歴や購買履歴が100%把握できないことから度々起こることだ。広告の仕組みを把握している筆者には、微笑ましいとも映るが、一般の消費者から見ると目障りとなることは理解できる。
7位は、ウェブサイト上の静的バナー広告の31%。これでも、ディスプレイ上でコンテンツを楽しむためには邪魔と感じる人も多いのだろう。そして、8位の「インターネット広告は迷惑だとは思いません」が12%もいることに驚く。このような人は、広告のあるお陰でコンテンツが無料か安く楽しめることができるという想像力があるのだろう。
メディアと広告の関係は切ってもきれない。技術がどのように進化しても、メディアビジネスを支えるためには、サブスクか広告が収入源になることは変わらない。できるだけユーザーが不快と思わない形での広告が望ましいが、不快と思われるほど注意を取らないと効果がないことも事実だ。このあたりの匙加減が、広告業界の課題だ。