イーロン・マスクによるTwitter社の買収は、当初は買収に反対していたTwitter社側が、今はイーロンマスクに買収するように求める裁判に発展している。実際の審理は来年2月に予定されていたが、Twitter社側が早期の審理を求めて10月に繰り上がった。
当初は買収にされることに反対していたTwitter社が買ってくれるように求めると言うのも不思議な話だ。それで言えば、イーロン・マスクのほうも6兆円も出してTwitter社を買収すると言うならある程度調査を済ませてから発表すれば良いものを、合意の後で撤回というのも不手際だ。当然、重要な企業情報は内部に秘匿されているから、交渉を始めるまでわからなかったと言うこともあり得るのだろう。だが、合意の前に開示させるべきであった。今回のイーロン・マスクの主張は、その情報が正しく無かったから撤回という主張なので、そう簡単には行かないものかもしれない。
先週、事態は新たな進展を見せた。Twitter社の元セキュリティー責任者が、Twitterの安全対策の問題や偽アカウント削除についての対応について内部告発を行ったのだ。イーロン・マスクは、このセキュリティー責任者を裁判に召喚することを求めている。買収撤回の理由とした偽アカウントの数の多さについて、この内部告発者が、イーロン・マスクの主張に有利な証言できると考えたからだろう。
今回のTwitter社をめぐる法廷闘争は何年にもわたる可能性がある。当初来年2月に予定されていた、審理開始がTwitter側の要求で10月に繰り上がり、現在はイーロン・マスク側は11月に延期を求めている。
今年の4月にイーロン・マスクが、Twitter社を買収することを一方的に発表し、Twitter社の取締役会は買収防衛策をとった。しかし、すぐに、両者は買収に合意してそのまま、イーロン・マスクがTwitter社のオーナーに収まるのかと思われた。しかし、偽アカウントの計算方法について両者は対立を始めた。偽アカウントの数は、Twitter社の企業価値に影響を与え、買収価格にも反映されるからだろう。
買収合意からすぐに、イーロン・マスクが、一方的に偽アカウントの数について正確な情報がないことを理由に買収交渉を打ち切ることを発表した。これに対してTwitter社が買収合意の履行を求める訴訟を起こしている。
今回の内部告発者の情報が信頼にあたるものであり、Twitter側の主張する偽アカウント数とイーロン・マスクの主張する、正確な情報が提供されていないという主張のどちらに有利に働くのか現時点でわからない。そもそも、この内部告発者の証言が裁判に含まれるかどうかも今後の裁判所の決定次第だ。
世界一のお金持ちであると同時に、多分世界一に近く忙しいであろうイーロン・マスクが、自ら進んでこのような泥沼の裁判に入ってしまうのはどうしてなのだろう。そもそもTwitter社の買収により言論の自由を守る場を確保しようと考えるあたり、普通のビジネスマンではないのは確かだ。普通のビジネスマンであれば、Twitterの経済的な潜在能力を買収により回復しようと考えるものだが、そうではなくて、世の中を良くするために民主的な言論の場が必要だと、ビジネスとは違う判断が入っている。だからこそ世界一の金持ちなのかもしれない。
そもそもTwitter社が経営的・経済的に有効なビジネスモデルを持っているかどうかは、創立当初から疑問符がついている。ほとんど黒字になっていない会社が、6兆円に値するのかどうか、ビジネスマンなら、そこを判断したであろう。
Twitter社の株価は現在は40ドル割り込んでおり、買収合意の際の54ドル20セントにはるかに届かない。合意を履行するなら、イーロン・マスクが支払うプレミアムは莫大なものになる。