AIツールの2つの法的課題

by Shogo

人工知能(AI)ツールについての話題や議論が絶えない。それには、2つの理由がある。まず、これほど短期間に技術やツールが普及したことがないために、その意味や影響についての理解が追いつかないからだ。単純にターミネーターの世界のような人工知能が暴走することへの恐怖に振れたり、その限りない可能性について想像できないために過小評価するというケースだ。これは徐々に解消されてゆくだろう。

もう一つは法律の問題だ。人工知能ツールは、今までのボールペン、絵筆やカメラと違い、使用者である人間が簡単に考えることもできないような制作物を生み出すことができる。このために、成果物であるコンテンツの権利や責任についての法整備が追いついてない。

昨年の夏ぐらいから、画像生成AIツールのMidjourneyをよく使っている。これは単純に面白いからだ。ChatGTPは無料版を触った後は積極的に使ってはいない。ただのChromeに機能拡張でGTP-3.5の機能を付け加えたので、何か検索するために画面の右側にChatGTPも反応する。ChatGTPにしろGoogleのBardにせよ、言語モデルで何かを作り出したいと言う想像力が働かないので、使っていないと言うより使えていないといった方が良いかもしれない。言語生成AIは検索には使えないからということも理由だ。

多くの言語生成AI や画像生成AIのツールが登場して、世界中で億単位の人が使っている。人によっては、すでに商業的な利用まで行っているケースも見られる。

2つの課題

だが、人工知能に対する恐怖や理解不足はさておき、AIツールが急速に日常化している現状からみて法整備の面で2つの課題に直面していると考えられる。

1つ目は、AIツールを作って作成された制作物が著作物かどうかだ。著作物だとすれば、誰に帰属するのかと言う問題。2つ目はAIツールを使って作成された制作物が問題や損害を起こしたときに、その責任は誰にあるかと言うことだ。この2つの事について少し考えてみたい。

AIツールをつかった制作物の著作権

まず著作権に関して先に考えると、現時点ではAIツールを使って作成した制作物は著作物でないとの考えが主流となっている。この理由には主に2つある。

まず著作物とは人間によって創作されたものであると言う前提がある。

著作権法では、第2条第1項第1号で著作物についての定義として、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」となっている。

「人間が」という言葉は含まれていないが、「思想又は感情を創作的に表現」するのは人間ということが前提となっていると考えられる。

AIツールを使って作られた制作物は、人間の指示によって、作り出されるとは言え、制作物の多くの部分がAIによって生成されるために著作物として認められないと言う考えが主流のようだ。

しかし、これについては、人間とAIの役割分担が明確に区別され、AIツールの使い方について(指示の仕方について)利用者が考案した独自の方法を持っている場合には著作権を認めるべきだと言う考えもあり得る。

それは例えば、カメラのような機械はシャッターボタンを押せば画像が記録される。カメラの設定、撮影する被写体、タイミング、撮影角度、画角など、撮影者のアイディアや工夫で画像が記録される事は間違いないが、カメラが現実に光に反応して、カメラの内部で画像を生成する。

絞りやショットスピードなどをマニュアルで設定して、独自の画像を撮影することもできるが、すべてオートでプログラムで撮ることもできる。そう考えると、AIツールに対して簡単な指示を与えて、制作物を作成すると言う事は、このカメラでプログラムで写真を撮影することにも通じる。

そう考えると、写真に著作権があるのであれば、AIツールを使って作られた制作物にも著作権が認められなければならない。

もう一つの著作権が認められない理由は、AIが、ネット上にある様々な創作物を読み込んで学習した上で、それに基づいて制作物を作る点にある。つまり、学習に利用した制作物は、他の人によって創作された著作物である。それを下敷きにして、制作物を作成するのであるから、AIツールが生成した制作物は、他者の著作物の法的な権利を侵害している。このために著作物として認められるべきではないと言う考え方だ。

ただし、この後者の他者の著作物を下敷きにした制作物であると言うことに関しては、アメリカではフェアユースと言う著作権のルールがあり、条件が限定されるものの、他人の著作物を使用することが認められている。

フェアユースは、公正利用や公正使用と訳されている概念で、他者の著作物の利用を認めるルールで、アメリカで判例となり、一般化している。

AIが他者の著作物を学習のために使用することがフェアユースであると考えられれば、この問題は解決することになる。ただし、現時点ではAIが他者の著作物を学習に利用する事がフェアユースにあたるかは、まだ何の判断をされていない。

そして、日本ではフェアユースと言う概念が、そもそも存在しないために、限定的な引用を除いて、他者の著作物を利用する事は認められていない。このために、日本では他者の著作物を利用したAIの学習は著作権違反になる可能性が高い。

以上のことから現時点では、AIツールを使った制作物について明確な判例はないものの、著作権は認められないと言うべきなのだろう。

しかしながら、画像生成ツールのMidjourneyを利用して、制作された作品が、アメリカ著作権局に著作物として登記された事例がある。2022年9月にMidjourneyを使って作成されたコミックブックが著作物として登録された。この作品は18ページにわたる画像と文章から構成されており、画像は全てMidjourneyが使用されている。

しかしながら、数ヶ月後に米著作権局は、対象となっている作品の画像が画像生成ツールによって作られたために著作権登録の一部を取り消した。この判断ではテキストを入力し、画像を作成することは、著作権保護に必要な創作と言う条件を満たすには、あまりにも制作物に対する貢献の度合いが少ないことを理由に挙げているようだ。この事例から考えると、Midjourneyは有料版であれば商業利用可能と謳っているが、これはかなりあやしい。

AIツールの法的責任

解決すべき、もう一つの課題は、AIツールがプロバイダ責任制限法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)の保護対象になるかと言うことだ。

プロバイダ責任制限法について総務省は以下のように説明している。

特定電気通信による情報の流通(掲示板、SNSの書き込み等)によって権利の侵害があった場合について、特定電気通信役務提供者(プロバイダ、サーバの管理・運営者等。以下「プロバイダ等」といいます。)の損害賠償責任が免責される要件を明確化するとともに、プロバイダに対する発信者情報の開示を請求する権利、発信者情報開示命令事件に関する裁判手続について定めた法律です。

総務省

この法律は、アメリカの通信品質法の230条と同様に、インターネット上のコンテンツに対する責任と免責を定めている。両者ともに、インターネット上の情報プラットフォームやインターネットサービスプロバイダーに対して、第三者によるコンテンツの投稿や公開に関して法的責任を負わない特権を与えている。

課題は、AIツールが作り出した制作物が何らかの損害や問題を起こした場合に、誰が責任を問われると言うことだ。言語生成モデルのChatGPTなどは、ハルシネーションと呼ばれる誤情報を生成することが知られている。このハルシネーションのために、何らかの損害が発生した場合に、誰が責任を問われるか。あるいは、ヘイトスピーチなどを含む有害なコンテンツを作り出して公開した場合の責任だ。

現時点における常識的な判断としては、プロバイダ責任制限法は、あくまでも、情報プラットフォームやインターネットサービスプロバイダーに適用され、コンテンツを生成するAIツールについては適用されないと考えられるのは自然だ。例えば、AIツールの利用者が求めた情報や制作物に対して、ユーザが意図しない形で、問題のある有害な制作物や情報を提供した場合には、AIツール側に責任があり、プロバイダ責任制限法や通信品質法230条の適用されず、AIツール運用者側の責任が問われるのが現時点での一般的の理解となっているようだ。この点に関しては、AIサービスで運用事業者は利用開始時点でユーザーからの免責を利用条件に含めているものと想像する。

ユーザからの免責契約数は別にして、まだ問題春。AIツールと情報プラットフォームの境目は、ますます曖昧になることが予想されることだ。現時点では、検索エンジンはコンテンツ制作者ではなく、情報の伝達手段と考えられている。このために、プロバイダ責任制限法や通信品質法230条の適用を受けて免責の対象となっている。しかしながら、MicrosoftのEdgeとBingのように検索エンジンとチャットボットはますます融合する傾向にあり、現時点では、想定できないようなAIツールの使い方がされことも考えられる。またAI技術が今後どのような発展の道をたどるのか誰にも分からない。この問題については、技術の開発の状況からの判断が必要になると思われる。

このAI生成コンテンツの著作権と法的責任については、ごく最近までは誰も考えてこなかった問題である。著作権の問題については、すでにアメリカではGetty ImagesがStable Diffusionに対して著作権で保護されたGetty Imagesが所有する数百万の画像とメタデータを許可を得ずにコピーしてAIの学習素材として利用されたとして訴訟を起こしている。また、あるアーティストグループはStable DiffusionとMidjourneyに対して、同様の理由で著作権侵害の訴訟を起こしている。

これはアメリカの事例なので、AIツールが学習する著作物の利用が、フェアユースに当たるかどうかが問われることになる。その判断の結果によっては、AIツールの生成する成果物の著作権問題がある程度、アメリカでは明確になってくるかもしれない。

今後このような訴訟を通じてAIツールの著作権や法的責任について、議論が進み、判例ができ法的な整理をされていくものと思われる。ただし、まだまだ、このAIツールの技術は開発途上であり、今後の利用形態も不明なために現時点では何も判判断すべきではない。言えることは、このような課題があっても、AIツールがは有用であることは間違いないので、慎重ながらも開発を進めるべきだ。

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