「キリストの埋葬」

by Shogo

ローマにカラヴァッジョを見に行ってバチカン美術館にも行った。バチカン美術館は広大で、目的のカラヴァッジョの「キリストの埋葬」に辿りつくまでは疲れてしまった。しかし、この作品に関しては実物を見ることできてよかった。「キリストの埋葬」は、彼の特徴的なキアロスクーロがより強調されたような作品だ。

「キリストの埋葬」は、サンタ・マリア・イン・ヴァリチェッラ教会のヴィトリーチェ家礼拝堂のために制作されたそうだ。キリスト教の教義における犠牲と復活の象徴だそうだが、宗教的な意味はあまり理解できない。カラヴァッジョは、聖人や聖書の人物を理想化する代わりに、彼らをより人間的に描いたことで知られる。娼婦や物乞いをモデルに絵をかいたそうだ。この作品でも、登場人物の存在感が感じられる。加えて、他の彼の作品と同様に光と影、構図と線が印象深い。

この作品では、ダイナミックな対角線が使用され、図像は画面上部右から下部左へと流れる。そして、画面の左からの光によりキリストの体は特に強調されている。その構図の中を流れるような線は、動きとドラマを生み出している。つまり、光と影の演出と対角線の構図がキリストの体と顔に注目を集めているのだ。写真で言うところのリーディング・ラインだ。

そして、暗いトーンと影の使用により、作品全体に深刻なムードが演出されている。赤や茶色のトーンは、血と大地を連想させ、死と埋葬の主題を強調しているのだろう。彼の作品の中でも特に印象深い。歩き回った甲斐があった。

サン・ピエトロ寺院の一階のミケランジェロのピエタは、いつ見ても美しい作品だが、よく言われるように、キリストの体には重みが全くないように見える。悲しむマリアの膝の上に浮いているように見える。一方、カラヴァッジョの「キリストの埋葬」では、死んだキリストの体の重みが十分に感じられる。そして、人物の肌や衣服の質感まで丁寧に描かれ、この埋葬と言う出来事を現実として強く感じさせるかのようだ。このリアリズムが、カラヴァッジョが、ローマで人気を集めた理由なのだろう。

「キリストの埋葬」の登場人物は、深い悲しみや絶望の表情を全身で表しており、見るものに深い感慨を与える。カラヴァッジョは、そのプロのモデルでもない人に、どのように表情やポーズを指導したのだろうか。この絵の中で唯一違和感を感じるのが、右端のマリアの大きく伸ばした両腕だ。それさえなければと思うが、宮下規久朗さんの本によれば、両手を広げる身振りはオランスと言う初期キリスト教時代の祈りの身振りだったそうだ。当時は、現在の私たちが見るような違和感がなく、祈りのポーズとして一般的なもののようだ。でも、今見ると変だ。

「キリストの埋葬」は、カラヴァッジョの作品の中のでも最高傑作に数えられる。それは実際に作品を見て、その丁寧な筆運びからも当然のことのように思えた。

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