Googleが、主要新聞社に対して、ニュース記事を書くAIツールをデモンストレーションしていると言う。このツールはGoogle社内ではGenesisと呼ばれている。
このツールは、出来事の詳細データを受け取ると、それを元に見出しを含めたニュース記事を作成する。各新聞社ともに、デモンストレーションについて、コメントをしていない。しかし、近い将来には報道機関にかぎられず、ほとんどの組織はAIツールを採用することは間違いがない。報道機関も例外ではない。たぶん組織的でないにせよ、すでに使っている記者は多いはずだ。
例えば日本でもニュースのアナウンサーがAIに置き換えられている。NHKでは2018年から「ニュースのヨミ子」と言うキャラクターがニュースを読んでいる。特に人員の少ない地方のラジオの気象情報番組はほとんどAIが読むようになってきている。AIがニュースを読むことで、早朝や深夜のアナウンサーの負担軽減に使っているそうだ。
しかも、AIのアナウンサーには利点もあり、昼夜関係なく仕事が行えることと準備も不要で、求められている時間ぴったりにアナウンスができると言うことだ。
日経新聞も同様に、日経電子版において、AIのアナウンサーがニュースを読み上げる動画を公開している。AP通信は、企業の決算情報を記事化する際に、記事を書いて自動生成するために、長年にわたりAIを使用しているそうだ。
これからは、ニュース記事の作成をAIツールを使うケースが増えてゆくだろう。求められている文字数の記事を瞬時に書くことができるであろうし、記事のスタイルもプロンプトを工夫することにより様々なタイプの記事が可能になる。
問題は、当面において、どのようなニュースを書かせるかだ。AIアナウンサーのように天気情報のような事実を淡々と伝えたり、企業の決算発表を記事化するなら問題はない。出来事についての解釈を行ったり論評する場合に問題が起こる可能性は現時点ではあるのだろう。AIツールのハルシネーションによって、歴史的・文化的な間違いが含まれていた場合は致命的だ。
既にこれは起こっており、ウェブメディアのCNETはAIを利用して記事の作成を始めたが、一部の記事に事実の誤りが含まれていたり、また盗作された内容が組まれていた可能性も発見され、CNETは記事を人間の手で書き直すと言うことになったという。
ChatGPTの使用でも注意しなければいけないが、生成AIツールの使用は限定して、最終的な記事は人間が作成すべきだったのだろう。あるいは、情報整理の段階や下書きに利用して、見出しの候補を出させるのは良い使い方だ。つまり、まだAIツールで記事を書き上げるのは難しいと思われる。
GoogleのGenesisのデモンストレーションで、業務範囲をどのように提案しているのかはわからない。Googleのスポークスパーソンも、「AIは記事の作成や事実確認において、ジャーナリストが果たす役割を代替することを意図したものではない。そのかわり、見出しやその他の書き方のオプションを提供できる」と述べている。ただし、Googleは、Genesisにはハルシネーションが起きない安全装置もあると発言しているようだ。
今回のGoogleの大手新聞社へのデモンストレーションは、Googleがライバルとして考えているであろうOpenAIが、メディアと技術共有パートナーシップを発表したことへの対抗と思われる。OpenAIは、AP通信と技術提携を行い、AIのトレーニングのために、AP通信のニュース記事のアーカイブをライセンス共有する提携を発表している。その見返りにAP通信は、OpenAIのテクノロジーとChatGPTなどのツールにアクセスできる。また、OpenAIは他の報道機関とも提携契約について協議中であると発表した。
また、OpenAIは、アメリカン・ジャーナリズム・プロジェクトと言う組織を通じて、ローカル新聞社に500万ドルの助成金を提供し、さらに参加している新聞社が、OpenAIのAIツールを500万ドル分利用できる権利も提供すると発表している。これで、参加している新聞社がOpenAIのツールに慣れてしまうと、提供された無料使用分を使い切った後は当然新たに契約することになると言うマーケティング戦略だ。
今回のGoogleによるGenesisのデモンストレーションは、メディア産業分野でOpenAIに独走させないために、主要新聞社への売り込みで巻き返そうとしているようだ。