サウジアラビアの「スポーツウォッシング」

by Shogo

オリンピックやFIFAワールドカップなどで活躍しているフランス人の講演に参加した。その後、多少話もした。共通の知人もいて話をよく聞いていたので親近感もあり、初めて会ったとも思えない。話の中でサウジアラビアの話題が印象深かった。それは、サウジアラビアが、スポーツ界のスーパーパワーとなっている事例だ。様々なスポーツに投資を行っていることはニュースでも見るが、彼の話から多くの事例を知った。食事会からの帰りの車の中で、FIFAとサウジアラビアの関係について考えた。

サウジアラビアは様々なスポーツのプロジェクトを行っている。彼も説明した「Vision 2030」に基づいて巨額の投資が行われている。2030年に向けた政府肝いりの経済改革構想「Vision 2030」は、スポーツやエンターテインメントについて、サウジアラビアが関与し、発展させることで、石油依存からの脱却を図ろうとするものだ。

まず、ボクシングだ。世界ボクシング評議会(WBC)ヘビー級王者のタイソン・フューリー(英国)が他の世界3団体統一王者のオレクサンドル・ウシク(ウクライナ)と4団体王座統一戦を開催することに合意したと発表されていた。日程は不明だが、サウジアラビアが会場に決まっている。それなりの負担と開催権料を支払っているのだろう。

ゴルフでも、サウジ政府系ファンドが出資して「LIVゴルフツアー」を立ち上げて、米男子プロゴルフ「PGAツアー」に対抗するプロジェクトを始めた。その後、両社は合併で合意しているので、「PGAツアー」はサウジアラビアのスポーツプロジェクトの一部となっている。

そして、サッカーだ。サッカーは単なるスポーツではなく、国際的な政治と経済の交差点にあるスポーツだ。世界規模で、単にファンや選手が多いだけでなく、影響力が大きい。まず手始めに、2021年10月に、サウジ政府系投資ファンドであるPIFが、英プレミアリーグのニューカッスル・ユナイテッドを買収している。その後、サウジ・プロフェッショナルリーグに有名選手の獲得を開始している。クリロナ、ベンゼマ、カンテ、ロナウド、ネイマールなどのサッカーのスーパースターたちが、サウジアラビアのチームに移籍した。メッシも巨額の年俸で勧誘されたが断ったようだ。

このサウジアラビアのサッカーへの触手は、FIFAにも及んでいる。特に、2034年のワールドカップのホスト国選定に関する最近の動きは、その一つの例だ。

FIFAの会長、ジャンニ・インファンティーノは、サウジアラビアがワールドカップを開催するための重要な支持者となっているようだ。しかし、このFIFAの動きは、イタリアとエジプトの間の緊張関係や、ジャーナリストのジャマル・カショギ氏の殺害に関連するサウジアラビアに対するヨーロッパの懸念など、多くの政治的な課題を引き起こしてている。

FIFAがサウジアラビアを2034年ワールドカップの唯一の入札者として確認したという決定は、FIFAのメンバーでさえ驚かせる急なプロセスを経て行われた。サウジアラビアのホスト国としての地位は、2030年大会を不透明な形で6カ国共催に押し込めて、2034年大会をサウジアラビアで開催する道を拓いた。ホスト国決定のプロセスが不自然に密室で決められた。公式の投票が行われる約一年前にほぼ確定されてしまったのだ。

FIFAの意思決定プロセスには、買収事件などもあったために、長透明性と倫理的な改革が求められてきた。しかし、2030年と2034年のワールドカップのホスト国選定における性急さと秘密主義は、FIFAのガバナンス方法に新たな批判をもたらしている。

サウジアラビアの、スポーツへの巨額の投資は、サウジアラビアの新しいイメージを国際的にアピールするための戦略の一環のようだ。この動きは、スポーツウォッシングと批判されている。「スポーツウォッシング」とは、スポーツを使ってイメージを向上させようとする活動だ。

サウジアラビアは、人権問題や性差別といった不都合な事実をスポーツで隠そうとしていると見られる。サウジアラビアでは、女性やLGBTQの抑圧や公開処刑などといった人権侵害に対して避難の声が世界から起こってきた。これをスポーツを利用して、イメージを改善しようとする意図があると見られている。

もちろん、石油依存の経済が、再生エネルギーの時代になって長くは続かないことは自明のために、スポーツや観光に経済成長の可能性を求めていることは確実だ。しかし、スポーツを使ったイメージ戦略である面も大きいと思われる。その対象の一つがFIFAということだろう。今後もサウジアラビアは、サッカーだけでなくスポーツの国際的な景観を形作る勢力であることは確実だ。

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