アスレティックスのラスラスベガス移転

by Shogo

オークランド・アスレティックスのラスラスベガスへの移転がオーナー会議で承認された。これで、この何年か続いてきた、アスレティックスの移転問題は、ラスベガス移転で決着した。

アスレティックスは1901年にフィラデルフィアで創設され、1955年にカンザスシティに移転し、1968年にカリフォルニア州オークランドに移転した。9回のワールドシリーズ優勝や15回のリーグ優勝の歴史がある。1970年代には「Swingin’ A’s」と称され、連続したワールドシリーズ制覇でMLBの中心的なチームだった。1980年代に一つのピークを迎えた後で低迷したが、21世紀初頭ではビリー・ビーンGMによるセイバーメトリックスを重視したチーム作りが話題となった。この頃のビリー・ビーンの物語は、「マネーボール」と言う本になり、ブラッド・ピットが主演した映画も公開された。今や、セイバーメトリックスを使ったチーム作りは一般的になり、アスレティックスは、その時期を最後のピークとして低迷している。

近年は、オークランド・コロシアムという老朽化したホームスタジアムの影響もあり、新たな球場建設の計画を進めていた。しかしベイエリア内での複数の建設計画は失敗に終わった。ベイエリア内の経済もスポーツファンも、もはやアスレティックスを必要としなくなっていたということなのだろう。

1968年からオークランドを本拠地としているために、私には、アスレティックスと言えばオークランドだ。私がアメリカの大学に留学した年の1989年は、サンフランシスコ・ジャイアンツ対アスレティックスのワールドシリーズだった。このワールドシリーズはベイブリッジ・シリーズと言われ、川をはさんだ両チームが対戦した。シリーズは、アスレティックスの4-0で終わっている。

この時のことをよく覚えているのは、第3試合の試合中に地震が起き、シリーズは10日間も中断したからだ。正確な記憶ではないが、ベイブリッジが地震で壊れた写真を見たような気がする。このしばらく後で、MLBの仕事を始めた時は、多くの人が、この時の経験を語っていた。当時のコミッショナーのフェイ・ヴィンセントは、シリーズを中止しようとしたが、周辺が説得して思いとどまったそうだ。関係ないが、このコミッショナーと一緒に撮った写真がどこかにあるはずだ。

アスレティックスの歴史を見るときに、アメリカの経済発展と資本主義の影響が色濃く出ているように思われる。アスレティックスがフィラデルフィアで誕生した1901年頃は、アメリカの産業革命と都市化の時代だった。この資本主義を支える労働者階級のレクレーションとして、野球は最も人気のあるものとなった。野球は「ナショナル・パスタイム」と言われるような言葉も、この頃生まれたのかもしれない。フィラデルフィアにおける中心的な娯楽として、周辺の小さな町や村からフィラデルフィアに集まり、工場などで働いていた多くの市民に愛されたのだろう。

1955年のカンザスシティへの移転は、アメリカの経済発展が東海岸地域から中西部に拡大し、経済の地理的な重心が西に移っていったことの反映とも捉えることができる。この時期に多くの企業がより大きな経済機会を求めて、中西部に進出した。アスレティックスも、新しいファンベースの創出と未開の市場の開拓を図ることによって、この資本主義の流れに乗ったと言える。

そして、1968年のオークランドへの移転は西海岸の経済的発展の結果、アスレティックスも、スポーツにとっても未開拓な西海岸へと本拠地を移した。1960年代というベビーブームとアメリカの資本主義の頂点にあって、この時期のカリフォルニアのは、大衆化と消費主義の最先端であり、テクノロジーやエンターテイメント産業の中心地であった。アスレティックスも、小さな市場のカンザスシティを見限って、この若い市場に新たな可能性を見出したのであろう。

しかしながら、20世紀の終わりから21世紀にかけて、アスレティックスはオークランドでのピークの時期を迎えた後、急速の転落を遂げることになる。西へ西へと移転を繰り返した後、もはや、新たな市場もなく、アメリカ経済も成熟期に入っている。カリフォルニアは、巨大な市場とは言え、価値観の多様化、エンターテイメントの多様化のために野球というスポーツの人気も圧倒的なものではなくなった。

しかも、川をはさんで、ほぼ同じ市場にサンフランシスコ・ジャイアンツが存在することの影響も大きいであろう。どちらも地元チームではあるが、やはりサンフランシスコの方が都市も大きく、ジャイアンツの方が一般的には人気が高い。

そして今回のラスベガスへの移転は、エンターテイメントやレジャーの中心地としてのラスベガスの可能性に賭けるということである。ラスベガスは単にアメリカのギャンブルの街ではなく、もはや世界的な観光都市である。

ここで、エンターテイメント化の新たな資本主義の発展に可能性を見出したということなのだろう。もちろんこれには、ネバダ州知事がアスレティックの新スタジアムのために3億8000万ドルの支出を決めたことも大きい。ラスベガスには、すでにNFLのラスベガス・レイダースが、2020年にオークランドから移転している。NHLのラスベガス・ゴールデンナイツとNFLラスベガス・レイダー、女子プロバスケットボール(WMBA)のラスベガス・エイシーズに加えて、MLBラスベガス・アスレティックスを持つことにより、ネバダ州とラスベガスは、さらにスポーツの分野での経済的発展を狙っているのであろう。世界のレジャー、エンターテイメント、スポーツの中心地として発展するために、さらに持ち駒を増やしたということのようだ。

フィラデルフィアの都市労働者のエンターテイメントとして始まったアスレティックスの歴史は、アメリカ経済のエンターテイメント化・レジャー化の流れに沿って、新たな歴史の扉を開く。

しかしながら、これによりワールドシリーズや交流戦などで何度も開催されてきたベイブリッジ・シリーズはもはや行われなくなる。多くの地元のファンは悲しんでいるだろう。

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