夜明け前の街灯がサン・ジェルマン・デ・プレの石畳を照らす。いつもどおりの朝の散歩だ。ただし場所はパリだ。2017年の夏以来のパリへの再訪が始まった。古くて新しいサン・ジェルマン・デ・プレの街は、時間を超えて変わらぬ魅力を持っている。そのように感じるのは、実存主義とか学生運動とかの歴史が私の中で、サン・ジェルマン・デ・プレと深く睦びついているからだろう。この前のパリはフェルメール展のルーブル美術館だけの弾丸ツアーに近い旅行だった。今回も、数日のパリ滞在は南仏へのトランジット的な意味だけだ。時間もないが、朝早くからパリの空気を吸って歩いた。
サンジェルマンデプレでカフェのテラスに座り、コーヒーを味わうにはまだまだ早い時間だった。誰も歩いてもいないし、裏道には車も通らない。ただ歩いて、少し写真を撮って、その歴史と文化の深さを思う。街角の小さなギャラリーやブティックには、パリ独自の雰囲気があるのだが、それも閉まっている。暗闇に街灯だけが輝く写真をたくさん撮った。
しばらく石畳の道を歩いて、セーヌ川に出る。遠くにノートルダム寺院が見えた。その火災によって焼け落ちる姿は、鮮明に覚えている。しかし、元の姿で、その重厚な存在感は遠目にも明らかだった。ノートルダムはパリの象徴の一つであり、その復興は国をあげて全力で行われているのだろう。2024年のパリ・オリンピック前の再建の完成が最優先だろうと想像する。オリンピックの際には、オリンピック史上初めて、開会式が競技場で行われない。セーヌ川が開会式の会場となる。ノートルダムは、エッフェル塔やルーブル美術館と並んで、開会式のバックドロップを構成するのだろう。
パリは、変わらないものと変わるものの共存だ。街の歴史的な建築物や芸術作品は永遠の価値を持ち、同時に、この街は常に新しい流行の中心でもある。リヴゴーシュと聞くと、新しい哲学やファッションの響きを感じる。過去と現在、そして未来が交錯するこの地区は、時間の流れを皮膚感覚として味わえる。ヘミングウエイは、パリを移動祝祭日に例えた。パリに一度でも住めば、パリは一生ついてくるということだそうだ。そんな、彼のような体験をしていなくても、この街は変わらない魅力を持っている。簡単に言うと、ただ「おしゃれ」だ。朝焼けに聳える、新しいノートルダム寺院を見て、破壊と復興の、時間を超えた物語を感じた。