アメリカの3大スポーツテレビ企業であるESPN、Fox、およびWarner Bros. Discoveryは、2024年秋にストリーミングスポーツサービスを共同で立ち上げることを発表した。このサービスは、これら3社が所有するネットワークからスポーツコンテンツをストリーミング配信する。対象となるスポーツは、NFL、MLB、NHL、NBAなどだ。さらに、加入者はESPN、ESPN2、ESPNU、SECN、ACCN、ESPNEWS、ABC、FOX、FS1、FS2、BTN、TNT、TBS、truTV、およびESPN+などのテレビのチャンネルも視聴できる。これは、ケーブルカッターという呼ばれる現象でケーブルTVを解約しようと考えているスポーツ好きの人々にとって便利なサービスになる可能性はある。
この新しいサービスの名前と価格は、今年後半に発表される予定。アメリカ国内限定のアプリとして提供される。また、顧客は既存のDisney+、Hulu、Maxのサブスクリプションとバンドルすることもできる。これも、すでに多くの契約者がいる3社にとっては有効な方法だ。
ESPN、Fox、およびWarner Bros. Discoveryの3社は、この協業の1/3を所有する。ただし、この新しいサービスは、スポーツのワンストップショップではない。詳しくは後ほど述べるが、Amazonは「Thursday Night Football」の放送権を保有しており、Appleはメジャーリーグサッカー(MLS)の放送権を独占契約している。
3社が共同でストリーミングサービスを開始する背景には、ライブスポーツイベントがケーブルなどの有料放送を支える重要なコンテンツである一方で、ケーブルや衛星放送の契約を解約する人々が急増しているという現状がある。3社は、ストリーミング市場での競争力を高め、ケーブルテレビからの視聴者流出に対応するために協力する。
そして、ESPN、Fox、およびWarner Bros. Discoveryの3社は、巨大IT企業がスポーツの放送権を高額で独占する流れに対抗することを狙っている。巨大IT企業は、巨額の資金を持ち、スポーツの放送権を高額で独占している。これに対抗するためには、単独では勝てないと判断したということだろう。
現時点は、メディアビジネスがテレビからストリーミング配信に移行する過程にあり、ストリーミング配信に進出した巨大IT企業がスポーツの放送権を購入する例が増えている。これは、IT企業がスポーツビジネスに大きな可能性を見出していることを示している。
代表的な例は、金額から言ってもAmazonがNFLだ。2022年、AmazonがNFLの「Thursday Night Football」の放送権を10年間で約130億ドルで獲得した。これは、NFLの放送権としては史上最高額だ。木曜日のNFLの試合は、Amazon Prime Video独占だ。
AppleもApple TV+でスポーツ中継に参入している。2022年、MLSの放送権を10年間で約25億ドルで獲得した。これは、MLSの試合放送権としては史上最高額。また、MLBの「Friday Night Baseball」の放送権を7年間で約85億ドルで獲得した。
Googleも2023年に、NBAの「League Pass」の放映権を7年間で約70億ドルで獲得している。
巨大IT企業がスポーツの放送権を購入する理由は、主に3つの理由がある。まず、自社のストリーミング配信サービスの契約数の増加を狙っていることだ。スポーツは多くの人々に人気があるコンテンツであり、スポーツの放送権を獲得することで、多くの契約者を獲得することができる。これは、今に始まったわけではなく、ラジオ放送・テレビ放送の黎明期から行われていることだ。
2番目の理由は、 収益の増加だ。スポーツの視聴者は、他のプラットフォームでも高額の月額サブスクリプション料を負担している。このサブスクリプション収入などを通じて、大きな収益を上げることができる。広告モデルでも、今までのテレビ放送と同様に、広告付きストリーミング配信サービスにすれば、広告収入も上げることができる。
3番目は、ブランドイメージの向上だ。スポーツは、多くの人々に愛されているコンテンツであり、スポーツの放送権を獲得することで、ストリーミング配信サービスのブランドイメージを向上させることができる。これにより、番宣を通じてスポーツとその他のドラマ・映画コンテンツとの相乗効果が期待できる。
このようなことを背景に今後も、巨大IT企業によるスポーツビジネスへの参入はさらに加速していくと考えられる。コンテンツとしてスポーツ放送権を手に入れたIT企業は、独自の技術やノウハウを活用することで、スポーツビジネスを革新していく可能性がある。例えば、VRやARなどの技術を活用することで、より臨場感のある観戦体験を提供したり、AIを活用することで、個々のユーザーに合わせたコンテンツ配信を行ったりすることが考えらる。今回の社の協業やAmazon、Apple、Googleが、これまでの伝統的メディアからスポーツ放送を奪うことでスポーツの観戦体験の革新が期待される。
まず、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)などの技術を活用することで、ファンは自宅にいながらスタジアムにいるかのような臨場感ある観戦体験を享受できるようになる可能性がある。それから、個別化されたコンテンツ配信だ。AIや機械学習を利用することで、視聴者の好みや過去の視聴履歴に基づいたパーソナライズされたコンテンツを提供することが可能になる。これにより、自分に最適化された視聴体験を得ることができる。
そして、インタラクティブな機能の導入だ。視聴者がリアルタイムで試合の視聴体験をカスタマイズできるインタラクティブな機能の導入も考えられる。例えば、視聴者が試合の展開やカメラアングルを選択できるなど、より参加型の観戦体験を提供する。最も重要なのは、データ分析とファンエンゲージメントだ。試合中のデータをリアルタイムで分析し、視聴者に提供することで、スポーツのコンテンツを、さらに充実し魅力的にすることができる。これには、生成AI技術を使った映像などの制作も含む。
これらの技術的進歩は、スポーツ業界における新しい収益源の創出とファンの経験の深化に寄与する可能性がある。