温室効果ガスという言葉を初めて聞いたのは、1992年にリオ・デジャネイロで行われた国連環境開発会議の仕事をした時だっただろうか。意識低い系なので、温暖化の問題は、その時まではあまり意識していなかった。
だが、今思い返すと、1980年代の初めに、あるファッションブランドからの依頼で、気象庁の気温のデータを全てグラフにしたことがあった。当然、その頃は、まだExcelがない時代なので、気象庁のデータを書き写して、手書きのグラフを作った。もちろん自分でやったわけではなく、当時のアシスタントの女性にお願いしたことを覚えている。その結果は、特に気温が上がっていると言う結論を得ることができなかった。今考えれば、気温が1度も上がれば破壊的な状況を生み出す。はるかに下回る温度の上昇で大きく体感が変わり、環境への影響がでる。だが、その当時はそのようなことを知らなかったので、結論としては、気象庁のデータからは気温の上昇が見られないと言う結論を出した。
話を温室効果ガスに戻すと、温室効果ガスが認識され始めたのは、20世紀後半の出来事でそれ以前は全く知られていないと思っていた。
しかし、今朝読んだ記事によれば、温室効果が発見されたのは、1856年のことだそうだ。この年にアメリカ人の女性科学者であるユーニス・ニュートン・フット(Eunice Newton Foote)は家庭の実験室で画期的な実験を行った。
彼女は、太陽の光が異なるガスに与える影響について、一連の実験を通じて検証した。二つのガラスシリンダーと水銀温度計を使用して、空気、二酸化炭素、水素ガスの各シリンダーに太陽光を当て、温度の変化を観察した。Footeは、二酸化炭素が他のガスよりも太陽光によって高温になることを発見し、これが後に「温室効果」と呼ばれる現象の初期の証拠となった。
しかし、女性だったからか理由はよくわからないが、彼女の研究は、当時の科学界で十分な評価を受けることはなかったようだ。AAAS(アメリカ科学振進協会)の年次会議では、彼女自身が研究を発表する代わりに、代理が彼女の論文を紹介した。しかし、彼女の論文はAAASの会議報告書には掲載されることがなく、後に「American Journal of Science and Arts」で彼女の名前で全文が公開された。しかしながら、その重要性は広く認識されることはなかったという。
1859年にになって、ジョン・ティンダル(John Tyndall)というアイルランドの男性の科学者が、より複雑な実験を行い、同様の結果を得て、彼は広く「温室効果の父」として知られるようになったという。
女性差別ということだろう。当時は、まだ日本で言えば江戸時代だ。それでも、江戸時代から温室効果につながる発見がされていたことに驚く。しかしながら、まだ工業化、自動車の普及、人口増加の以前であり、温室効果が後に大きな問題になるとは考えていなかったのではないだろうか。
温室効果を調べてみると、温室効果が環境問題として認識され始めたのは、1950年代から1970年代にかけてのことで、特に1960年代には科学者たちによる研究が増え、産業革命以降の人間の活動による二酸化炭素の大気中への排出が地球の気候に影響を与える可能性が指摘され始めたそうだ。
1970年代になると、地球温暖化の概念がより一般的になり、国際的な環境問題として広く認識されるようになったようだ。私は意識していなかったが、その文脈で考えると、ファッションブランドが温暖化を考えて作業を依頼した理由は、良く分かる。ただし、その時も、環境問題ではなく、春夏物のキャンペーンの時期をいつにすべきかということが、ポイントだった。
そして1980年代後半から1990年代にかけて、温室効果ガスの排出を抑制することの重要性が強調され、1992年のリオデジャネイロ地球サミットで国際連合気候変動枠組条約(UNFCCC)が採択された。このイベントが、私の仕事になったということだ。
この時に締結された条約は、1997年の京都議定書とともに、国際的な気候変動対策の枠組みとなり、温室効果ガス削減への取り組みを促進している。
しかしながら、このような30年以上の取り組みも効果なく、温暖化は進んでいる。最近発表されたNOAA(アメリカ海洋大気庁)のデータによると、温室効果ガスのレベルは急激に上昇し、人類文明の歴史以前から見ても高い水準に達している。現在、地球の大気中には過去約430万年間で最も多くの温室効果ガスが含まれているという。
2023年、地球表面のCO2濃度は419.3ppmに達し、前年比2.8ppmの増加となった。これは、12年連続でCO2が2ppm以上増加したことを意味する。また、メタン濃度も2007年以降5番目に高い成長率を記録しているようだ。この結果、世界平均気温は産業化前に比べて約4℃も高かったことが示されている。
温室効果が証明されて以来168年。無策のつけの結果ということだろう。