夏休みになったが、雑用が多く、カメラをもって撮影に出かけると言うようなことは出来ていない。だが、写真は撮っていないかというと、そうでもない。出掛ける途中などで結構な枚数を撮っている。それは、カメラを持ち出さなくても、いつももっているカメラがあるからだ。そう、スマホだ。
InfoTrendsの推計によると、2023年には全世界で1.2兆枚ものデジタル写真が撮影されたとのことだ。これは、地球に住む約75億人が、一人あたり約160枚の写真を撮る計算になる。歴史上あり得なかった数となっている。
この写真ブームを引き起こしているのは、数十億人の人々が常にデジタルカメラとしても使えるスマホを持ち歩いていることが、最大の要因だ。InfoTrendsの推計では、撮影される写真の85%がスマホで撮影されるとのことだ。
多くのスマホにおいて、カメラは際立った機能の一つとなっている。というより、最近のスマホの進化はカメラ以外はあまりない。画像センサーは小型化しつつも高性能化し、スマホの処理能力向上により高度な画像処理がリアルタイムで可能になったことで、スマホで撮影した写真の品質は、高価なレンズ交換式カメラのレベルに近づいている。10年以上前に渡部さとるさんに、iPhoneと当時のライカで撮った写真のプリントを見せられたが違いは分からなかった。
スマホのカメラが大幅に進化し、多くの人々が専用のカメラを持ち歩く、あるいは購入する必要性を感じなくなっている。むしろ、スマホの方が良い事も多い。AI機能が導入され、高性能化し、簡単に写真を編集できるようになっているからだ。
プロや写真愛好家は今後も高性能なカメラとレンズを使い続けるているが、現代のスマホは、写真愛好家ではない一般のニーズを十分に満たす写真を撮影できる。
この結果、スマホは、カメラ・写真機器業界に壊滅的な影響をもたらした。日本のカメラメーカー団体であるCIPA(カメラ映像機器工業会)によると、世界のカメラ出荷台数は2010年から2023年の間に94%も減少した。これは、数十年にわたる成長を帳消しにするほどの急激な落ち込みだ。
この減少の主な原因は、スマホ写真の普及以前にはカジュアルな写真家が頼りにしていた、レンズ一体型デジタルカメラ、いわゆるコンデジ(コンパクト・デジタル・カメラ)の出荷台数の大幅な減少だ。2023年には、CIPA加盟企業のコンデジカメラの出荷台数はわずか170万台となり、2010年の約1億900万台から激減した。
2007年にiPhoneが登場した頃、カメラ業界は非常に好調だった。2008年には、CIPA加盟企業は1億2000万台近くのデジタルカメラを出荷していた。当時のスマホのカメラは、コンデジにも画質面で太刀打ちできず、InstagramやSnapchatのような写真アプリもまだ存在していなかった。
それからの十数年で、全てが変わった。写真の目的が、単なる記録や記念だけではなく、SNSにアップすることが中心の目的になった。この場合に、ネットに繋がらないコンデジに出番はない。その結果が、世界のカメラ出荷台数が、2010年のピーク時から80%以上減少したということになる。2023年に、世界の大手カメラメーカーは1520万台を出荷したが、これは2001年以来のデジタルカメラの最低出荷台数であり、1980年代初頭以来のカメラ全体の最低出荷台数となったという。
スマホカメラの進化は、写真撮影をより身近なものにし、誰もが気軽に写真を楽しめる時代をもたらした。しかし、その一方で、伝統的なカメラ業界は産業としては成り立たなくなっている。カメラメーカーは、スマホとの差別化を図り、新たな価値を提供していくことが求められている。それが何かは分からないが、今分かっているのは、一部の趣味的な写真愛好家向けというニッチ市場で生きて行くということだ。そこから、考えられるのは、カメラの価格は、今の数倍にはなるということだ。