IDCの発表によると、日本除く、アジア太平洋地域では、AI駆動型ショッピングが急速に普及しており、2028年までに消費者がAIエージェントを通じて320億ドルを支出すると予測されているという。この成長の背景には、小売業界が競争力を維持するために顧客体験(CX)の個別化に注力していることが挙げられる。特に、AIはデータ分析と予測能力を活用し、顧客のニーズに応じたショッピングを可能にする。
AI駆動型ショッピングとは、AIを活用して買い物体験を自動化・最適化する仕組みを指す。具体的には、買物AIエージェントがスマホやその他のデバイス上で独立して動作し、ユーザーに代わって商品やサービスを検索、選択、購入するプロセスを担う。
買物AIエージェントは、情報収集、分析、行動、学習のプロセスを通じて自律的に動作し、効率的なショッピングを可能にする。まず、買物AIエージェントはユーザーの購入履歴や嗜好、行動データを収集し、それを自然言語処理やパターン認識技術で解釈してユーザーのニーズや好みを把握する。その後、収集した情報を基に高度なアルゴリズムで選択肢を評価し、最適な商品やサービスを提案する。
例えば、ユーザーが「夏用の涼しいシャツが欲しい」とリクエストすると、買物AIエージェントはその条件に合う商品を検索し、具体的な提案を行う。また、提案だけでなく購入手続きも自動で進めることも可能にできる。さらに、買物AIエージェントは、ユーザーからのフィードバックを基に学習し続けるため、ユーザーの嗜好や購買パターンにより適応していく。
このように買物AIエージェントは、自律的にユーザーのニーズを予測し、最適な選択肢を提示するだけでなく、購入プロセス全体を効率化することで、快適なショッピング体験を実現する。
例えば、大手小売業者やテクノロジー企業は既にこの分野で進化を遂げており、AmazonやGoogle Lensなどが代表例だ。これらのサービスは、ユーザーが膨大な選択肢に圧倒されることなく、効率的かつパーソナライズされた買い物体験を提供することを目指している。
AI駆動型ショッピングが普及すれば、大きな変化が予想される。企業側では、、リアルタイムで顧客データを収集・分析し、その場で最適な商品やサービスを提案することが必要になる。これが、買物AIエージェントが読み取るデータとなるからだ。消費者側では、ショッピングプロセスが簡略化されるために、選択肢過多による意思決定疲労が軽減される。また、AIエージェントによる購入の自動化は時間効率にも寄与する。これは、別の言い方をすると選ぶ楽しさの喪失になるが、時間をかけて自分で選びたいような商品やカテゴリーでは買物AIエージェントに依頼しないということだろう。
個人的には、広告の意義や効果がどうなるか気になる。買物AIエージェントの普及により、従来型の広告が効果を失う可能性はある。しかし、完全になくなるわけではないとも考えられる。買物AIエージェントはユーザーの嗜好やニーズを学習し、客観的な基準で商品やサービスを提案するため、広告による影響が薄れることが予想される。特に、買物AIエージェントが膨大な情報をフィルタリングして最適な選択肢を提示するため、バナー広告や動画広告などはユーザーの目に触れにくくなることは容易に予想される。
しかし、広告が完全に無効化されるわけではないとも考えられる。買物AIエージェント自体が広告を、選択を最適化する手段として活用する可能性もある。その場合には、例えばAIを活用してターゲティング精度を向上させた広告や、パーソナライズされたプロモーションは依然として有効ではあろう。また、高級品や衝動買いの商品では、ブランドイメージを訴求する広告が引き続き重要な役割を果たすだろう。ただし、誤認や誇大表現の広告を避けるために、広告を入力データとして扱わないというような設定が買物AIエージェントに組み込まれる可能性もある。
AI駆動型ショッピング時代の広告戦略としては、買物AIエージェントと連携し、そのアルゴリズムに最適化された情報提供やプロモーション手法を開発することが求められるだろう。