Meta社は、InstagramやFacebookの広告なし有料課金サービスを導入する計画を進めていると報じられた。この新しいモデルは、欧州連合（EU）の規制に対応するための戦略的な取り組みであり、ユーザーが個人データを利用した広告ターゲティングに同意しない場合、月額料金を支払うことで広告なしの選択肢を提供する。この計画は、Meta社の従来の無料広告モデルからの大きな転換点となる。
この有料課金モデルの検討の背景には、ヨーロッパの個人情報の保護に対する意識が強いことがある。このために、インターネット上でのデータ利用に関しても厳しい規制が設けられている 。EUは、GDPR（一般データ保護規則）やDMA（デジタル市場法）といった包括的な法規制を導入し、個人データの保護とデータ市場の公正な競争を推進している 。GDPRは2018年に施行され、EU市民の個人データの処理に関する詳細なルールを定め、企業に対して透明性の高いデータ管理とユーザーからの明確な同意取得を義務付けている 。さらに、2022年に成立し、一部がすでに施行されているDMAは、Metaのような巨大ITプラットフォームを「ゲートキーパー」として指定し、自己優遇や競合排除といった行為を制限することで、デジタル市場における公正な競争環境の実現を目指している 。
これらの規制に違反した場合の制裁は非常に厳しく、GDPRでは最大で全世界年間売上高の4%または2000万ユーロのいずれか高い方が、DMAではさらに高額な制裁金が科される可能性がある 。実際に、アイルランドのデータ保護委員会（DPC）は、Metaに対して過去最高のGDPR制裁金となる12億ユーロの罰金を科しており、これはMetaが欧州ユーザーのデータを適切な保護措置なしに米国のサーバーへ移転していたことが理由だ 。
また、DPCはMetaに対し、ターゲティング広告の表示に関する同意をユーザーに強制しているとして9000万ユーロ、ユーザーの個人情報がインターネット上で公開されているとして2億6500万ユーロの制裁金を科した事例もある 。DMAにおいても、MetaはFacebookとInstagramのアカウント連携解除オプションの追加や、広告ターゲティング機能の透明性向上を求められており、規制当局の要求に対応し始めている。
無料サービスが基本のMetaが、この厳しい規制環境に対応するため、広告なしの有料プランを導入する方針転換を行おうとしているということになる。Metaのマーク・ザッカーバーグCEOは、無料サービスへの強いこだわりを示してきた。しかし、ヨーロッパにおけるデータプライバシー規制の強化と、ユーザーのプライバシー意識の高まりを受け、Metaは従来の広告収入モデルへの依存から部分的に脱却し、新たな収益源の確保と規制遵守の両立を図る必要に迫られたようだ 。
この有料プラン導入の直接的な背景には、EU規制当局からのデータ利用に関する同意取得の要求があるそうだ。特に、ユーザーのオンライン活動データに基づいてパーソナライズされた広告を表示するためには、事前の同意が必須となるEUの規則は、Metaの主要な収益源を脅かすものだ 。Metaは、この状況を打開するために、ユーザーに「広告を見る代わりに無料利用」か「料金を払って広告なし利用」の選択肢を提供することで、規制当局の懸念に対応しようとしている。
Meta社は、この有料課金モデル「SNA（Subscription No Ads）」プランで以下の料金体系を提案していているようだ。
- デスクトップ版 1アカウントにつき月額約€10
- モバイル版 1アカウントにつき月額約€13。これはAppleやGoogleのアプリストア手数料を含む。
- 追加アカウント 1アカウントごとに約€6
この価格設定は、YouTube Premiumなど他のサブスクリプションサービスと類似しており、競争力があるとされている。
ユーザーは、今回の有料課金モデルの導入に対して、以下の2つの選択肢を持つ
- 無料で利用し続ける代わりに、個人データを利用したターゲティング広告を見る。
- 月額料金を支払い、広告なしの体験を得る。
Meta社は、このモデルがユーザーに「プライバシー対価」を提供しつつ、規制要件への準拠を確保する方法であると説明している。
この有料課金サービスは現在EUで計画されており、英国でも導入が検討されているそうだ。一方で米国では、このモデルが導入される可能性は低いだろう。それは主に米国市場での広告収益の高さと規制要件の違いによるものだ。これは、日本でも同じで、日本で有料課金モデルが導入されることはないだろう。
