イギリスのガソリン供給の問題が、連日、新聞に取り上げられている。ついには、軍隊まで出動して、スタンドまでガソリンを運び出した。こうなると起こるのは買いだめだ。ガソリンスタンドまで、車の長い列ができている写真も何度も見かけた。多分、買いだめが、更なるガソリン不足を起こしているのであろう。
不足しているのは、ガソリンを運ぶトラックドライバーだけではなく、様々な働き手不足に悩んでいるようだ。先週、イギリス政府は、トラックドライバーと食肉加工者に、クリスマスまでの3カ月間の短期のビザを与えると発表している。
こうなってくると何のためにBrexitをしたのかよくわからない。Brexitの1つの目的は、移民を制限してイギリス人のために仕事を確保することだった。Brexit は、2016年に離脱が決定し、2020年末に移行期間が終了している。この間十分な時間があったはずだが、イギリス政府は予想された事態に何の対応もしなかったのだろうか。様々な業種で不足すると思われる労働者に資格取得や職業訓練のための補助金を出す手を打ってこなかったのだろうか。
大きく取り扱われているのは、ガソリンを運ぶトラックドライバーだが、問題はそれだけではないようだ。様々な領域での労働者は決定的に不足している。農業従事者や食肉加工者、ヘルスケアワーカーなど、社会のいたるところで労働者の不足が問題になっている。トラックドライバーの不足は、ガソリンの供給だけではなく、様々なサプライチェーンを麻痺させ、結果的にスーパーの店に食品が並ばないと言う事まで起こっていると言う。
Brexitの移行期間とその間のパンデミックによりイギリスから130万人のヨーロッパからの労働者が退去したそうだ。当然この穴を埋めるために、イギリス人を雇用すればよかったはずだ。イギリスの失業率が、2021年の第二四半期で4.91%、その前の期の5%と比べると少し減っている。この理由が、ヨーロッパからの労働者の離脱によってもたらされたのかどうかわからない。
問題は、多くの仕事はすぐにはできないと言う事だ。多くの場合、資格が必要であったり、職業訓練が必要のケースも多い。130万人が退去する状況の中で、政府は失業者に対する資格取得奨励や職業訓練を怠って来たのだろうか。また企業に対しても、イギリス人を雇用することに対する補助金をつける対策もあってよかったのかもしれない。
実際、イギリス政府が、この間に何をしたのか、よくは知らないで書いているが、結果的には労働者不足で経済が麻痺するような状況に陥っている。移行期間にパンデミックが襲うと言うような不測の事態もあったのも事実で、十分な対応が取れなかったのかもしれない。
このイギリスの事態を、対岸の火事と考えられない。日本は、近い将来に少子高齢化のために、労働力不足が予想されている。しかも日本のように、多くの高齢者を持つ社会には、かなりの数のヘルスケアワーカーが必要になる。スーパーのレジやサプライチェーンはテクノロジーで解決できても、高齢者の看護は人間によるしかない。遠い将来にはロボットの看護師が登場するであろうが、それはまだまだ先であろう。
今の予想では2050年頃には、日本の人口が1億人を下回ることになる。しかし問題は、人口の減少だけではなく、総人口に占める高齢者の割合だ。幸か不幸か、長寿社会で、今後ますます高齢者の割合は増えていく。
イギリスの記事を読んでいて、まるで未来の日本の状況を読んでいるような不思議な気持ちになった。