ペロシ米国下院議長の台湾訪問から中国の海上軍事演習、ミサイル発射と不穏な空気が台湾周辺に流れている。ロシアによるウクライナ侵略もあり、中国が同様の軍事作戦を開始するのではと言う恐れが多くの人の頭の片隅にあるのではないか。
しかし、中国はゼロコロナ政策で経済成長率が著しく落ち込んでいる。そのような状況下で、経済に打撃を与えるかもしれないような軍事行動をとるとは思えない。だが、今後も、中国による台湾への軍事行動の可能性と言う、日本周辺における緊張感は続いていくことが予想される。同様に米中対立は今後の世界の外交経済における基調となって変わる事は無い。
経済政策においても、アメリカも日本も半導体の国産化に向けて政府補助を決めたように、中国の技術の浸透をいかに防ぐかが大きなテーマとなっている。日本は2018年にファーウェイとZTEの通信機器を政府調達から外すとの政府方針を固めたと報じられている。アメリカでは、2019年にさらに踏み込んで、トランプ政権が既存の中国製通信設備の排除の大統領令を出している。さらにその際には、TikTokのアメリカでの事業停止も、当時のトランプ大統領が公言している。
この大統領令では、ファーウェイとZTEの設備を所有する、すべての企業に対して、撤去するように命じ、その交換の費用を政府が補助することになっていた。
その後、バイデン政権になるとTik Tokについての問題は存在しなかったように、バイデン大統領も含めて誰もこの問題について言及しない。また、ファーウェイとZTEの設備の交換については、全く進んでいないようだ。連邦通信委員会は、先月、中国製機器の交換費用の見積もりとして50億ドルかかると発表している。だが、これを予算化する動きは全く見られないということだ。
現時点のように、米中対立が新しい局面に入り、アメリカにとっての安全保障上のリスクが高まっているのにもかかわらず、3年前の中国製通信機器の撤去と言う大統領令が実行にうつされていないのは不思議なことだ。5億ドルの予算を、すぐに承認して実行に移すと言うような動きもない。イギリスではすでに、時間をかけてファーウェイとZTEの機器は撤去完了している。日本については、2018年の報道以来、情報はあまりない。その時点で、政府調達から外れたが、それまでの既存設備があったのかについても情報はない。
同様に、あれほど騒がれたTikTokによる情報漏洩についても、全く誰の関心にもなくなったようになっている。日本では、そもそもそのような問題は存在しないように誰もが振る舞ってきた。
米中対立により、安全保障上のリスクが高まっているのにもかかわらず、ファーウェイとZTEの機器についてなんお対応も取らないのだろうか。
理想的には、中国製技術や中国製アプリ排除と言うようなことが問題にならない世界が望ましい。だが、現実はそうなっていない。しかしながら、言っていることとやっていることが違うのは、何故かと考えると、それが外交であり政治であるのかもしれないと思うようになった。
表面上は対立しているように見えているが、実際は本気ではないと言うことだ。アメリカにとって、中国は最大の輸入相手国であり。つまり中国にとってアメリカは最大の輸出相手国である。アメリカの輸出相手国としても中国は第3位となる。重要な顧客とも言える。お互いに経済的には依存関係にあるために、対立と言いながらこの関係を断ち切る事はほぼ不可能であろう。このように考えていくと、両国の指導者の対立だけで、実質的には何も変わらずに今後も経済活動が続いていくことが予想される。ただし怖いのは、経済ではなく、両国の政治指導者が軍事的行動の決定権を持っていることだ。このような関係環境下で、日本が今後どのような立ち位置を取るのが良いのか考えてみると、良きにつけ悪しきにつけ日本は中国の隣にいると言う状況を忘れることができないと言うことだけが確かだ。