戦後の日本は技術大国だった。革新的な製品を世界で売っていた。今朝のニュースで、SamsungがスマホにAIを搭載というような記事を読んだ。20年くらい前まではモバイルテクノロジーでも日本は最先端だった。3G技術は日本が開発したと言っても過言ではない。i-Modeの1999年から使われていた。それほど、モバイル文化が根付いている国だ。しかし、いまはどうなっているのか。デジタルエンゲージメントの指標を見ると、日本のデジタル化は他国に大きく後れを取っているのが現状だ。
確かに、モバイル端末が生活に欠かせないツールとなり、eコマースが盛んだ。しかし、ビジネスにおけるデジタルの活用は慎重だ。キャッシュレス社会やスマートシティなど、「Society 5.0」の実現を目指す日本のデジタルトランスフォーメーションの掛け声はあっても実態が追いついていない。
ネットメディアのPYMNTSが発表したレポートで「How The World Does Digital: A Global Benchmark Of Consumer Digital Transformation」を読むと、日本のデジタル化の現状が他国と比べると遅れていることがよく分かる。この調査は、8億1,700万人以上の消費者のデジタル行動を対象に行われたもので信頼性が高い。
日本の週間デジタル活動で最も人気なのはビデオストリーミング(38.1%)で、ライブ配信視聴(32.6%)、モバイルゲーム(30%)と続きます。月間では、メッセージングが平均9.4日で最多となっている。
世代別では、デジタルエンゲージメントはZ世代が244日と最も活発で、所得別では高所得者層が159日でトップ。エンターテイメント関連がベスト10をしめており、ビジネス関連はリストには上がってこない。しかも全体的に、日本のデジタルエンゲージメント指標は他国に比べて圧倒的に低い。日本は、ブラジル、シンガポール、米国、スペイン、ドイツなどの国々、11カ国の中で最下位となっている。
レポートでは、この遅れをプライバシーへの懸念、対面コミュニケーション志向、ブランドへの忠誠心など、日本独自の文化的価値観が影響していると結論付けている。
政府が以前より提唱している「Society 5.0」の実現には、キャッシュレス化、スマートシティ化、サプライチェーンの効率化など、まだ多くの課題が残されている。だが、デジタル化が進まない理由には、多くの要因があると推測される。
まず言えることは、優れたIT人材の不足だろう。デジタル化を推進できる優秀なIT人材が不足していることは確実だ。人材不足で、外部人材の活用したくてもできないのが現状だ。これは、一つには教育戦略がなかったことと、IT人材が活躍できる産業育成政策との欠如が原因だ。
加えて、多くの企業の経営者層のデジタル化に対する理解不足も影響しているかもしれない。多くの経営者がデジタル技術の導入の重要性を十分に認識しておらず、導入に消極的な姿勢というケースが多い。過去の成功体験にとらわれ、人材集約的な過去の事業スタイルに囚われてデジタル化への投資を先送りする傾向があるように思われる。デジタル投資より日本人の労賃が安いということだろう。
そのような企業では、長年使用してきた旧来のITシステム(レガシーシステム)を抱えており、それがDXの障害となっている。最新技術との互換性が低く、更新が困難なため技術革新が遅れがちになる。そして、もはや取り返しがつかないほど遅れた技術を使っている企業が多い。
また、日本人の気質として、変化を嫌う対応力の低さも影響しているのかもしれない。これが、グローバル化・デジタル化時代の変化への対応を鈍らせている面がある。昭和時代の成功体験が変革のブレーキになっているのだろう。
政府はデジタル庁を設置して、デジタル化推進の取り組みを強化している。しかし先日来、様々な手続きを役所で行っているが、どれもこれも手書き書類で印鑑という旧来のものでデジタル化の欠片もない。絶望的な気分になった。
デジタル後進国になってしまったのは、これら以外にも多くの要因があると思われる。だが、中でも長い経済低迷を背景に戦略的な産業育成や人材育成の政策の欠如が、大きな要因だと思えてならない。