天気が良かったので、水辺の写真を撮りがてら、天王洲アイルまで「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」を見に行った。
その写真展に行った理由はいくつかある。まず、ウェス・アンダーソンの映画が好きなこと、その映画の世界観や色彩感覚、映像美が好きなこと、そして、この写真展の告知ポスターをどこかで見かけた際に、その写真に強く惹かれたことが大きい。
そのポスターの写真は、ヨーロッパ・アルプスのヘアピンカーブに建つホテルの正面を撮ったものだ。その写真を見て連想したのは、ルイス・バルツだ。ルイス・バルスは、好きな写真家の五人には入る写真家だ。写真の歴史では、ニュー・トポグラフィックスの流れの作家として知られるが、同時にそのミニマリスティックな表現は好みにピッタリだ。ルイス・バルツ的な写真に、さらにウェス・アンダーソン的な着色がされた写真展ということで出かけた。
この写真展は、世界中で様々な人が撮った写真を投稿するオンラインコミュニティーが中心となっている。このコミュニティーは、NYブルックリンに住むウォリーとアマンダの夫婦が写真をInstagramにあげたとこから始まっているようだ。多分、この2人は旅行が好きで、様々な場所でウェス・アンダーソンの映画のような光景に出会ったことから、このプロジェクトを始めたようだ。同じように旅行が好きで、ウェス・アンダーソンが好きな人々が撮った写真がオンラインで集まったことで、この写真展につながっている。
最初のポスターで、ルイス・バルツのニュー・トポグラフィックスをイメージして見にいくと、想像通り、そのような写真はたくさんあって楽しめた。さらに、非常にシンプルなミニマルスティックな好みの写真もたくさんあって、それぞれ素晴らしい。
会場を進んで行くと、それぞれ同じ種類の写真が集められている。例えば、ホテルのファサードとか、交通機関とか、同じを対象が集まってコーナーに分けられており、これらは、ベッヒャー夫妻のタイポロジーそのものだ。タイポロジーもニュー・トポグラフィックスもどちらも、都市や自然、建築物、人工物、文化遺産に焦点を当て、対象は似ている。違いは、ニュー・トポグラフィックスが、人間が自然をどう変えたかに焦点が当たっている。その意味では、「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」は、タイポロジー的と言った方が良いのかもしれない。しかも、そのタイポロジーは、ウェス・アンダーソン的かどうかという主観的な判断で決定されるのだと思う。
ともかく、写真の歴史の中のタイポロジー、ニュー・トポグラフィックス、ミニマリストなどの影響力の大きかった写真の潮流に、ウエス・アンダーソンの色彩感覚が加わったような写真展となっており、1枚1枚、まさに好みの種類の写真が並んでいる。
しかも、これらの1枚1枚の写真は違う人によって撮られて、1人の写真家の目を通したものではない。ウォリーとアマンダのキュレーションによって構成されている。写真はInstagramなどのインターネットを通じて集められたものであるから、まさに多くの人が集うオンラインネットワークの結晶と言っていい。インターネットの時代だからできた写真展と言える。
会場は若い男女に溢れており、「かわいい」と言う声が多く聞かれる。普段の写真展とは全く違う印象だ。前日のマチス展が少し空いていたことに驚いたが、こちらは大混雑。もちろん、会場が東京都美術館に比べれば、狭いと言うこともあるが、天王洲の倉庫街と言う不便な場所にもかかわらず、これだけの人を集めると言うのは、かなりの集客力だ。映画監督としてのウェス・アンダーソンの人気と、やはりあのポスターのインパクトが強いものと思われる。
写真展を見た後は、運河の周りの写真を撮って、少しお茶して帰ってきた。気温も上がり、日差しも強かったが、水辺は風が心地良かった。
会場で図録を見たが、写真集としては、あまり良い出来とも言えなかったので、帰ってきてAmazonで写真集を注文した。