ソーシャルメディアの使用が十代の若者のメンタルヘルスに悪影響を及ぼしているのではないかという懸念は以前より指摘されている。この問題に対応するために、アメリカ合衆国公衆衛生局長官のVivek Murthy博士は、ソーシャルメディアプラットフォームに、使用が十代の若者の精神衛生を害する可能性があるという警告ラベルを表示するよう議会に働きかける方針を発表した。
公衆衛生局が昨年発表した研究によると、1日3時間以上ソーシャルメディアを利用する十代の若者は、メンタルヘルスの問題を抱えるリスクが著しく高くなることが示されている。また、46%の十代の若者がソーシャルメディアによって自分の体に対する否定的な感情を抱くようになったと回答している。
Murthy博士は、ソーシャルメディアの影響を交通事故や食品汚染と同等の公衆衛生上のリスクとみなしている。このために、タバコやアルコール製品の警告表示のように、「健康に対して安全ではない」という警告ラベルをソーシャルメディアに表示するように求める方針だ。これは公衆衛生局の権限ではなく、議会の承認が必要だ。
タバコについては、1965年に、公衆衛生局長官の報告を受けて、議会は米国内で流通するすべてのタバコ製品のパッケージに「この製品の使用は健康を害する可能性がある」という警告表示を義務付ける法案を可決した。その結果、喫煙率は50年間で42%から11.5%まで低下している。
一方で、ソーシャルメディアが子どもや十代の若者のメンタルヘルスの問題の原因であるかどうかについては、研究者の間でも議論が行われている。2007年のiPhone発売を転換点とし、自殺行動や絶望感の報告が急増したという研究もある。しかし、他の専門家は、ソーシャルメディアの台頭と幸福度の低下が同時期に起こったものの、因果関係の証拠はないとし、経済的困窮、社会的孤立、人種差別、学校での銃乱射事件、オピオイド危機などの要因を指摘している。つまり、タバコの害のように明確な根拠がないというのが現状である。
それでも、Murthy博士は、以前よりソーシャルメディアを健康上のリスクとみなしてきた。2023年5月に発表した勧告でも、「ソーシャルメディアが子どもや十代の若者のメンタルヘルスと幸福に深刻な危険をもたらす可能性があることを示す十分な指標がある」と警告していた。だが一方で、ソーシャルメディアが十代の若者のメンタルヘルスに与える影響は完全には解明されておらず、プラットフォームにはリスクと利点の両面があることも認めている。
2023年の公衆衛生局の報告書によると、13~17歳の約95%、8~12歳の40%近くがソーシャルメディアを使用しているという。通常は、13歳以上でなければ、ソーシャルメディアサイトにアカウントを作成することはできない。しかし、それらの年齢制限は、虚偽の生年月日を入力するだけで、簡単にかいくぐることができる。このために、ソーシャルメディアの利用者の低年齢化は急速に進んでいる。この傾向は、日本でも同じだ。
この報告書では、10代の若者の大多数が、平均して1日3.5時間をソーシャルメディアに費やしている。そして、1日3時間以上ソーシャルメディアを利用する若者は、うつや不安などのメンタルヘルス問題のリスクが2倍になると報告されている。特に女子は、ボディイメージの問題や摂食障害のリスクが高いとの指摘もある。この状況は、日本でも同様で、小学校低学年でもソーシャルメディアを使っているケースも見られる。
ソーシャルメディアに「健康に対して安全ではない」という警告ラベルをつけるという検討は、日本でも同樣の議論が必要だろう。