今週驚いたニュースは、アサヒビールがラグビーワールドカップ2023のスポンサーになったことだ。
ラグビーワールドカップの最上位のスポンサーは、「ワールド・ワイド・パートナー」と言うカテゴリーで、6社程度選ばれ、会場に広告看板を出る他に、全世界でマーケティング権を使用できる。また、様々な大会との関連するイベントへの参加権が与えられる。マッチ・ボール・デリバリーの少年少女を選ぶことや、オフィシャルカーを提供することなど、スポンサーの、商品に合わせて決められる。今まで、ビールカテゴリーのスポンサーであったハイネケンは、試合前のコイン・トスをハイネケンのブースで行う権利を持っていた。
2番目のカテゴリーは、開催国内限定のスポンサーで「オフィシャル・スポンサー」。これは「ワールド・ワイド・パートナー」よりも数が多い。会場に広告看板は出せるが、「ワールド・ワイド・パートナー」より、広告看板の数は少なくなる。そして3番目のカテゴリーは、「オフィシャル・サプライヤー」。会場に広告看板は出ない。
アサヒビールの前に、ビールやアルコール飲料のカテゴリーでスポンサーになっていたのはハイネケン。ハイネケンとラグビーの関係は深く、サッカーで言えばUEFAチャンピオンズリーグに当たる、欧州ラグビークラブ選手権は、ハイネケンがタイトル・スポンサーになって「ハイネケンカップ」と呼ばれる。そして、ハイネケンとラグビーワールドカップの関係は深く、2007年から4回にわたってスポンサーを続けてきた。それが今回降りるのはどういうわけなのだろうか。
このようなスポンサーシップの場合には、既存スポンサーに第一交渉権があるので、ハイネケンが交渉しなかったわけではないがと思うが、金銭的な折り合いがつかなかったのだろう。フランスでは、スポーツ会場でのアルコールの提供や広告が禁止するエヴァン法があり、これが障害になった可能性はある。
確かに2015年のイングランド大会では、会場で190万リットルのビールが消費されたと言われ、2019年の日本大会でも、発表はされていないが、かなりのハイネケンビールが売れたと聞いている。
この販売増加分がスポンサーシップの見合いとなって、広告費としてのスポンサーシップ料が出費されており、全世界を対象とした広告は金銭換算で評価が低いとすれば、スポンサーを降りると言うことも理解できる。
ラグビーワールドカップの試合は全世界に中継されており、そこに映る看板の広告の効果は大きいと考える。しかし、それをハイネケンは、あまり評価していないのかもしれない。その金額は、公表されていないが、「ワールド・ワイド・パートナー」の場合には、15億円から20億円と言われている。幅があるのは、そのカテゴリーや契約時の状況によって変わるからだ。
しかし、2018年にUEFAチャンピオンズリーグではアルコールの販売を解禁している。そして、今のところスタジアムで年10回だけ、事前に申請すればアルコールの販売が許可される。そして、このエヴァン法の改正が議論されているようなので、2023年までにはラグビーワールドカップの会場でビールが販売される可能性がある。
当然ハイネケンもそのような動きがわかっているが、それでも二の足を踏んだか、ビールが売れるかどうか分からない会場でのスポンサーとしての出費に踏み切れなかったと言うことなのだろうか。
アサヒビールのほうは、世界市場開拓のためにラグビーに賭けたのだろう。
ラグビーとビールは、切っても切れない関係がある。ビール好きが多いことでも知られるラグビーファンを対象に広告をする事は意味がある。問題はアサヒビールの世界各国への販売体制の展開がどうなっているかだ。販売されていないものは売れないので、世界各国での販売体制の確立がある程度見えているのかもしれない。確かに、ロンドンで働いていた時期に、ロンドンの中心部のパブであれば大抵スーパードライが置いてあり、同僚の多くも好んでスーパードライを飲んでいた。
しかし、それはハイネケンの場合は世界100カ国で生産され、世界170カ国で販売されていると言う全世界の販売体制とは違う。アサヒビールがその域に達していない。ラグビーワールドカップのスポンサーになると言う出費に見合うだけの体制を2023年までに作る自信があるのか、あるいは、このスポンサーシップを梃子に、世界各地での販売についての交渉を始めると言うことなのだろうか。
どちらにしても、ラグビーワールドカップの「ワールド・ワイド・パートナー」に日本企業が入ると言う事は喜ばしいことだ。かつては、オリンピックやFIFAワールドカップに、たくさんの日本企業がスポンサーとして入っていた。しかし、オリンピックではまだパナソニック、トヨタ、ブリヂストンの3社が残っているが、FIFAワールドカップでは、日本企業はソニーの撤退後は、1社もない。 何か日本企業の凋落を反映するようで寂しい気持ちがしていたが、久々に日本企業がメガ・スポーツイベントのスポンサーになると言うニュースは少し勇気づけられる