10年ほど前に通訳案内士の資格を取った。仕事として通訳案内士の仕事をするつもりはなかったが、部下に資格マニアがいてたくさんの資格を持っていたので、自分も運転免許以外に資格があっても良いかと思ったのと、英語力の腕試しのつもりだった。観光についての一般常識の問題集を少し勉強して受験したところ、無事に合格した。その後は、資格を取った事もすっかり忘れていた。
ところが、最近になってメールが来て、通訳案内士法が改正になり、5年に一度の研修が義務付けられたと言う。これを受講しないと、通訳案内士の資格が取り消しになると言うのである。資格を取ったものの、全く役に立たないものなので、取り消しになっても構わないと思ったが、人間と言うのは持っているものを失う事は大きな痛みを伴うのが一般的である。この全く利用価値のない資格であっても、みすみす失うのももったいない気がして研修を受講することにした。
それまで全く知らなかったが、調べてみると、2018年に通訳案内士法が改正され、その時にこの研修が義務付けられたようだ。その一方で、この改正通訳案内士法では、通訳案内業務が自由化されている。つまり通訳案内士の資格を持つ者のみに許された業務ではなく、誰でも通訳案内業務を行えるようになっている。通訳案内士の権利としては名称独占資格と言う意味のないものに変わった。私の持っている通訳案内士の資格は、通訳案内士と名乗って良いと言うそれだけのことのようだ。通訳案内業務を行いたければ、この資格がなくても誰でも行える。
通訳案内業務の自由化で誰でも業務が行われるようになった一方、通訳案内士には業務の品質確保のための研修が課せられと言うのはどういうことなのだろうか。それであればむしろ、通訳案内業務を行う人に対して、登録資格にしてその登録の際に研修を行うなどの、品質担保の手続きも必要ではないかと思うが、そうはなってないようだ。
また、この改正法では、従来の通訳案内士は、全国通訳案内士という名称に変わり、新たに地域通訳案内士の資格が設定されている。こちらのほうは地域別の資格で合格のハードルが低いようだ。しかしそれも、通訳案内業務の独占ではなく、無資格であっても業務が行えるのであればまったくの意味のない資格だ。
ともかく、せっかく持っている資格を失うのは辛いので、研修をできる方法を探したところ、一般社団法人や株式会社が通訳案内士のための研修をオンラインで提供している。スケジュールの合う、そのうちの1つに申し込んで半日研修を受けた。最後には、試験もあり100点満点の70点をとらないと受講が認められないと言う事だった。幸いにも85点で合格することができ、無事に通訳案内士、いや今は全国通訳案内士の資格は維持できることになった。
しかしこのようなことも、8千円以上の費用がかかっているわけで、観光庁を含めた業界組織の金儲けのための研修制度のような気がして少し嫌な気持ちになっている。