電通が、広告配信ツールを発表

by Shogo

日本のインターネット広告費は2020年にマスメディア4媒体の広告費と並び、2021年にはそれを追い越した。日本の広告費全体ではリーマンショックや東日本大震災、そして今回の新型コロナウィルス感染症の影響受けて、その際には前年割れをしている。しかしインターネット広告費だけは、そのような年であっても、成長率は落ちても順調に成長を続けてきた。

しかし、そのインターネット広告費にも逆風が吹き始めている。それはインターネット広告の成長を支えてきた精度の高いターゲティングを行うためのユーザの追跡技術が制限されるようになったことだ。

この追跡行ってきたのは、ブラウザのクッキーの技術であり、スマホの端末識別子である。これらの技術が、プライバシー意識の高まりとともに利用が制限され始めている。

ブラウザのクッキーについては、既にAppleのSafariでは2019年から制限が始まっており、サイトをまたいで追跡することができなくなっている。同様の対応は、Google Chromeを除いて、他のブラウザでも行われている。ブラザー最大のシェアを持つGoogle Chromeは、Googleそのものが広告を主たる収入とする会社のために、サイトをまたぐ第三者クッキーは、2023年中のサポート停止を予定している。

またスマホの追跡を行う端末識別子については、iPhoneでは2020年よりデータ共有のためのユーザの同意がアプリごとに求められるようになった。この結果、約7割のユーザが共有を許可していない。このためにユーザのデータが収集できず、ターゲッティングの精度が落ちている。結果として、広告の効果が落ちて、FacebookやInstagramでは広告売り上げが、大きく落ち込んでいる。

現時点ではこのプライバシー保護が強化されたのは、iPhoneだけではあるが、Androidについても近いうちに同様の対応が取られるとGoogleが発表している。

このように既存のインターネット上のユーザの追跡技術が、使用できなくなってきた状況を受けて、電通は新しいツールを発表した。「Contextual Intelligence」と名付けられたツールは、文脈に基づいて、広告配信を選択するツールである。

自然言語処理と感情分析を用いて、広告のターゲットとコンテンツをマッチングさせる独自のアルゴリズムにより構築されていると言う。すでに電通傘下の米国子会社、arat、Dentsu X、iProspectの各社において実用化されている。

このツールはユーザが入力したフレーズやキーワード、その他ユーザに関連すると認識されたURLに基づいて、ターゲットに最適なサイトを選択するために使われると言う。このツールを使ってインターネット広告の購入の際の入札を行う。

このように聞くと、なんだか大層なシステムのようだが、アウトドアが好きな人にはアウトドア関連のサイトを選択すると言うだけのことのようにも聞こえる。

問題は、ユーザが入力したフレーズやキーワードの特定だが、これは現在はChromeではクッキーがまだ有効のために利用可能だがクッキー停止後ではどうなのだろうか。第3者クッキーが使えなくなった後でも使えるGoogleの第1者クッキーによる、ユーザのデータにより、個人情報を省いた形でデータが連結されるだろうか。この点については何も公表されていないので現時点ではよくわからない。

クッキーや端末識別子が使えなくなった後で、ユーザを追跡するのは難しくなる事は確実だ。そのためには広告の配信は、20世紀のマスメディアの時代と同じように、そのコンテンツの文脈に合わせた広告を配信するように、また戻っていくように思われる。ユーザの行動履歴や属性が追跡できないとするとそれしか方法がなくなる。今回の電通のツールのように、補う為のツールは開発されるだろうが、今までの完全な追跡の技術とはレベルが違うために、同じ精度は期待できない。このため、インターネット広告の成長を支えたターゲティングの精度が落ち、広告効果も下がるために、広告費にも影響が出ることが予想される。

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