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多依樹の夜明けの続き。夜明け前に棚田の中まで降りて写真を撮っていたが、夜が明け始めている。展望台の方を見上げるとたくさんの人が集まっている。元陽にはたくさんの棚田を見下ろす場所があるが、東を向いて広い棚田を見下ろすことができる場所は、この多依樹が一番だそうだ。だから、たくさんの人が多依樹に棚田の向こうに上がる朝日を見るために集まっている。
そろそろ展望台に戻ろうと思ったが、来た道を戻るのは遠すぎる。すでに棚田の中に深く入っている。とは言え、棚田の畦を歩くのは避けたい。足を乗せても大丈夫なほどの広さと堅さがあるが、万が一にでも壊したら大変だ。目で道を捜すと後の方に展望台に向かう細い道が目に入った。慌てて戻ると、道は少し深い谷に降りなければならないが展望台の方に向かっている。
息を切らして坂を上っている途中で朝日が見えた。展望台はすぐそこだ。展望台まで上ると谷の向こうの山に太陽が昇る。谷の棚田は遙か左手の紅河の渓谷に向かって緩やかな勾配となっている。
大勢の人と三脚のなかにスペースを見つけて夢中でシャッターを切り始めた。少し撮っては、朝日と棚田を見つめる。太陽が登り始める。太陽の動きに連れて、棚田の輝きの場所が移っていく。棚田の水が赤く輝いて眩しい。周りの人も黙ってシャッターを切り続ける。私もシャッターを切ってはまた谷を見下ろす。