アメリカ下院は半導体の生産や研究開発に総額527億ドル(約7兆円)の補助金を出す法案、Chip+を可決した。一部の共和党員も賛成し、圧倒的多数で可決されている。すでに、上院も通過しているので、バイデン大統領がまもなく署名して、実行段階にはいる。すでに、1年以上の議論の期間があったが、最終的に可決された背景には中国との対立がある。おりしも、ペロシ下院議長の訪台で、台湾海峡は危ない雰囲気だ。
日本も、半導体の国産化政策を進めており、同様な政策を開始している。最近では、経済産業省は、半導体大手キオクシアなどによる半導体工場の工場の建設に最大約929億円を助成すると発表している。投資額2788億円の3分の1を国が出す。背景には、日本の半導体産業の没落がある。バブル期までは、半導体と言えば日本の代名詞と言っても良いほどの産業であったが、今や見る影もない。
半導体産業の没落は日本だけではなくアメリカも同様である。1990年にはアメリカは、世界の半導体のほぼ4割を生産していた。だが、その後この数字は減少を続けてきた。一方でシェアを伸ばしたのは、韓国、台湾、中国のアジア勢である。アメリカと対立する中国のシェアは増加を続け2020年には25%に達している。そして、この数字は今後もさらに増加が続くことが予想される。
アメリカの巨額の投資や強いアジアの半導体産業に対して、日本は今後どのように生き残っていくのだろうか。実際の製造は、台湾メーカーに任せて、むしろ企画設計を特化する方が、付加価値が高く、将来的な競争力が保てるのではないだろうか。
それはさておき、アメリカが、半導体の国産化のために連邦予算を投入するのは、米中対立が今後も続き、世界経済はブロック化に進むと言うことを前提としている。ファーウェイの例でも言えるように、多くのハイテク技術は、武器の性能と表裏一体だ。つまり経済問題ではなく、安全保障問題だ。日本としては、経済的には米中両方とビジネスを拡大したいところだが、半導体が兵器の製造に関係すると言うことになると、日本の中国との協力関係にはアメリカからストップがかかる可能性も高い。
ブロック経済圏と聞くと、第二次世界大戦前を思い出す。それだけではなく、ロシアのウクライナ侵略やパンデミックなど、20世紀で終わったかと思われるような出来事が続く。同様に北朝鮮やロシアによる核兵器による恫喝は、これも20世紀的な悪夢の復活だ。そのようなことを考えていると、つい先日まで考えていた「世界はだんだん良くなる仮説」は単なる夢だったのかのように感じてくる。