砂漠のモノリスと言う記事のタイトルを読んで、好きな映画の「2001年宇宙の旅」を思い出した。だが、記事を読んでみると、映画の話とは、まるで関係なく、サウジアラビアからカザフスタンにかけての砂漠地帯で発見された先史時代の巨大な石造物の事だった。
この石造物は、長さが数キロもあり、全体としては尻尾を持った凧のような形をしている。石を何キロにも渡って並べて一つの構造物を作っていたのだ。しかも、その形状は、巨大なために全体を見るためには、空から見るしかない。空からしか見えない巨大な構造物を作ったと言う点ではナスカの地上絵と同じだ。
研究では、この凧のような構造物は、狩猟民族が動物を追い込んで、捕らえるために使われたと考えられている。だからナスカの地上絵と違って、こちらは実用的な価値があったのかもしれないようだ。
そして、2015年にヨルダンとサウジアラビアで、近くの砂漠の凧の形が正確に描かれたモノリスが発見された。この2つのモノリスの描かれた凧の形を調べてみると、周辺にある69の凧の形をした構造物と比較して、その辺の形状と一致している構造物を特定することができた。それと同時に、年代測定ツールを用いてその設計図のふられたものですの作られた年代も推定することができたそうだ。
それぞれ、7000年から9000年前に作られた、このモノリスは、人類史上の最も古い設計図と考えられている。つまり、最初に動物を捕らえるための構造物の形である凧の形を設計図としてモノリスに描き、そのとおりに何キロにも渡って石を並べていったということのようだ。
中東で地上に作られた凧の構造物が発見された後、研究者たちは過去10年間に渡って衛星画像を用いて、中東、西・中央アジアの様々な地域で6000以上の同様の地上の凧の構造物を確認したと言う。そして2015年に設計図の彫られた2つのモノリスが発見され、それがその周辺の地上の凧と形状がほぼ同一であることが確認された。
この砂漠のモノリスから、わかる事は、農耕が始まる前から、人類はある程度の人数で協力して何キロの長さの構造物を作るような共同作業ができていたと言うことだ。狩猟時代と言うと、いくつかの家族から構成される少人数のグループが移動しながら生活していたイメージがあるが、実際はそうではなく、ある程度の社会的構造を持ち共同して何かを行うと言うことができたようだ。
映画「2001年宇宙の旅」では、弱小な類人猿の一族が、モノリスに触れることにより、道具を使うことを覚えるところから始まる。個人的な意見では、映画史上最も印象的なシーンは、その類人猿が宙に放り投げた道具として使われた動物の骨が落ちてくると宇宙船に変わるシーンだ。数秒で、人類の数万年にわたる歴史を表現している。これこそ、本当に映画的な手法で、スタンリー・キューブリックの天才が現れている。
砂漠のモノリスと言うタイトルで読み始めた記事は、映画のモノリスとは関係なかった。映画のように人類はモノリスに触れ一瞬で成長したのではなく、狩猟時代から長い歴史をかけて共同して作業することを覚えていったということを知った。何事も一夜には変わらないということだ。