「1984年」の監視社会

by Shogo

アメリカでは、オーウェルの小説「1984年」を思わせる監視社会が現実味を帯びてきた。

DOGEによるアメリカ国民の個人データへのアクセス試みは、「1984年」の監視社会への第一歩となりかねない。このような全体主義的な動きが、アメリカで起こっていることには驚き以外の何者でもない。

DOGEは、トランプ政権2期目に大統領令によって設立された 。その公式な使命は、連邦政府の支出における「浪費、不正、濫用」を削減し、連邦政府の技術を近代化することで効率と生産性を最大化」することだ 。このイニシアチブは、トランプ大統領とイーロン・マスクの選挙期間中の議論から生まれたとされている 。   

マスクのDOGEにおける役割については、ホワイトハウスがメディアや法廷で、マスクがDOGEを運営しているとか、政府の決定を下しているという主張を否定し、大統領の上級顧問に過ぎないと主張している一方で、トランプ大統領はマスクがDOGEの責任者であると主張しており、裁判所も彼を事実上のリーダーと認定している 。

DOGEの地位もまた不明確であり、かつては米国デジタルサービス(U.S. Digital Service, USDS)として知られていたが、現在は米国DOGEサービス(U.S. DOGE Service, USDS)と略称され、2026年7月4日の国の250周年記念日に解散予定の米国DOGEサービス一時組織(U.S. DOGE Service Temporary Organization, USDSTO)で構成されている 。ホワイトハウスは、USDSおよびUSDSTOの長官代行としてエイミー・グリーソンを指名しており、マスクではない 。   

DOGEの設立と活動は、その18ヶ月という期間限定であること 、そしてその名称が暗号通貨のミームに由来すること  から、迅速かつ非伝統的なアプローチを示唆しており、その真の目的と長期的な影響に対する疑問を投げかけている。特に、マスクの曖昧な役割は、アメリカでは政府の透明性と説明責任に対する懸念を高めている。 

全国民データへの「前例のない無制限アクセス」

DOGEの最も憂慮すべき活動の一つが、アメリカ国民の膨大な個人情報へのアクセス試みだ。社会保障局(SSA)のシステムには、約7000万人のアメリカ人の医療情報や銀行口座番号といった機密性の高い個人情報が保管されている。DOGEはこれらの情報への「前例のない無制限アクセス」を要求しているという。

しかし、2025年4月に連邦判事は、DOGEによるSSAデータへのアクセスを制限する判決を下した。判事は、「DOGEやSSAが何をしたいかということではなく、どのようにその仕事を行いたいかが問題」だと指摘している。約90年間、SSAは記録に関するプライバシーの期待という基本原則に導かれてきたが、DOGEの行動はその基盤に大きな亀裂を生じさせたと判事は述べた。

さらに問題なのは、DOGEは財務省の決済システムへのアクセス権も取得しており、社会保障制度のようなプログラム向けの約6兆ドルの支払いを取り扱うシステムに関与すると見込まれている。マスクは何万人もの人が100歳を遥かに超えて年金を受け取ると言うような、現実にはありえないことが起こっていると度々指摘してきた。確かに、そのようなおかしなことが起こっているのも事実であろう。だが、だからといって、すべての国民のデータを片っ端から集めるということが認められるのもおかしい。

データベース構築がもたらす「1984年」的監視社会の危険性

DOGEによる国民データベースの構築は、プライバシーの侵害という重大な問題をはらんでいる。「1984年」では、「ビッグブラザー」と呼ばれる権力者が国民を常時監視する社会が描かれているが、DOGEの行動はそれを現実のものとする恐れがあるというのは言いすぎだろうか。

マスクは興味深いことに、2023年にNATO高官を「オーウェル的」と批判し、「オーウェルの小説の再現だ。こういうやつらは『1984年』をマニュアルだと思っている」とXに投稿した。しかし皮肉にも、現在のDOGEの活動は、マスク自身が批判したはずの「1984年」的な監視体制の構築につながりかねない。

DOGEによるデータアクセスの最も危険な側面の一つは、政治的目的に利用される可能性だ。すでにSSA内で働くマスクの側近が、DOGEがアクセスすべきではない個人データを使って、不正投票に関する疑わしい主張を広めているという報道もある。ただし、これは明確な証拠のある話ではなく、伝聞による報道だ。

しかし、DOGEの真の目的が「トランプ大統領とイーロン・マスクにとって、より機能しやすいものに政府を作り変える」ことにあることのように思われる。大統領といえども、権力者が、国民の個人データを政治的な目的で分析・利用することは、民主主義の根幹を揺るがす深刻な問題だ。

アメリカの裁判所がDOGEのデータアクセスに制限を課していることは、民主主義の抑制と均衡のシステムが機能していることを示す希望の光だ。しかし、トランプ政権は判決に対して「この決定に上訴し、最終的な勝利を期待する」と述べており、今後も争いが続くことが予想される。

「政府効率化」という美名のもとに進むこの監視社会化の動きは、アメリカだけでなく世界中の民主主義国家にとって警鐘となるべきだろう。

テクノロジーの発展によって可能となった大規模データ収集と分析は、使い方によっては市民の自由を守るものにも、抑圧するものにもなりえる。これまでは世界中の尊敬を集めてきたアメリカ合衆国で、このようなことが起こっていることが信じられない。

1984年、AppleはMacintoshを発売するCMで、テクノロジーが全体主義を阻止すると宣言した。皮肉にも、今日では同じテクノロジーが全体主義を可能にする道具となりかねない状況に直面している。

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