ソール・ライター

by Shogo

ソール・ライター(Saul Leiter)を知ったのは、2009年頃のことだと思う。当時たくさんの写真集を見たいと思っていたが、写真集は高価で、たくさんを買うことができなかった。そんな時に、プラハを訪れて書店でPhoto Pocheというの小型本の写真家シリーズを見つけた。プラハで何冊か買った後、帰国後にまとめて同シリーズの10冊程度の写真集を購入した。その中に当時は全く知らなかったソール・ライターも含まれていた。

写真集の到着後、他の写真家は全て有名な人だったので、だいたいの写真は知っていたが、ソール・ライターは全く初めてだった。そして、彼の写真集を見てその色味や構図などに強く惹かれた。

当時は、デジタルカメラも使ってはいたが、基本的には普段はモノクロフィルムを使って、暗室でプリントをしていた。そんな中で、カラーの写真に惹かれると言うのは自分でも少し驚いた。それは、彼の写真の独特の色味にもあったのだろう。その時点では詳しくは知らなかったが、ファッション写真家として活躍していた彼は使用期限の切れたコダクロームも使っていたために、あのような少し濁りのあるというか、強く主張しない色味が生まれていたようだ。

また、その時点で知らなかった別のことは、モノクロ写真で作品を発表することが普通だった時代に彼はカラーで作品を作っていた。しかしながら、彼はそれらのカラーの写真を発表する事はなかったので、長く無名のままだった。

私がソール・ライターを知った頃は、彼の名前も知っている人も限られていた。その後、徐々に名前が知られ、今は有名写真家として、写真展もいつも満員になる。彼のユニークな写真が、多くの人を惹きつけるのは当然だろう。

写真の歴史においては、ウィリアム・エグルストンやスティーブン・ショアが、ニューカラーと呼ばれるカラーの作品を発表して有名になったと理解していた。モノクロ写真が主流であった時代にカラー写真の作品で新しい時代を切り開いたのは彼らであって、ソール・ライターではなかった。

スティーブン・ショアのニューカラーの写真集「Uncommon Places」は、1982年に発売されている。しかし、ソール・ライターは1940年代からカラーで写真を撮っていたそうだ。既に1947年のMoMAにおける写真展「Experimental Photography in Colar」では、ソール・ライターのカラーの作品が20枚展示されたそうだ。

しかし、その後もソール・ライターは、モノクロの写真は作品として発表したが、カラーの写真は発表しなかった。カラー写真を作品として発表するつもりもなく撮っていたようだ。その彼が、カラー写真をプリントして発表するようになったの1990年代に入ってからの事のようだ。その頃には、カラー写真がアートとして一般的になっていたからなのだろう。

最初にPhoto Pocheの写真集を見て、彼の写真が好きになったのは、彼の写真の持ついくつかの要素に惹かれたからだ。それは独特な控えめな落ち着いた色彩、窓ガラスや反射・影を使った重層的な構図、被写体を中心から、外したり隠したりするデザイン的な作品構成だと思う。

まず色味に関してはアンバーに転んだ、落ち着いた色はニューヨークの路上を別の世界のように見せる。モノクロ写真も同様に、現実の世界をから色を抜いて別の世界に見せているのと同様に、彼の独特の色味を使って現実を物語を感じさせる世界に転換している。

さらに、ソール・ライターの写真で好きな点は、その重層的な構図だ。写真の中に複雑にレイヤーが重なり合う。それらは窓、ガラスの反射、影などを使い、一瞬何を見ているのかわからないような奥行きと複雑さを感じさせる。このレイヤーの構成は、見るものを作品全体に引っ込む力があり、日常世界に予期できない美を発見させる。

また、彼の作品は、常にフレーミングやトリミングにおいても特徴的だ。ネガティブスペースを多用して、構図を構成して、その結果、色や形、光と影を強調している。好きな写真の1枚は、ほとんど黒で遠くに赤い影が見えている作品だ。これはパラソルの裏側を画面に大きく取り込んで、遠くの景色を少しだけ見せている作品で、一瞬見ただけでは何が映っているのか、よくわからない。このようなありふれた光景を抽象的なイメージに変える。彼の世界の見方は驚かされることが多い。

作品には、重層的な構造を表現することのできる窓、ガラス、水溜まり、光沢のある塗装などを使った写真が多い。反射を使った作品は、現実と窓ガラスなどに映った虚像により、作品にストーリー性を与え、現実と虚像が混じり合った不思議な世界を見せる。これを真似して、窓ガラスの反射ばかり取っていた時期もある。

ソウルライターの写真は、その独特の色味と構図やデザイン性のために見るとすぐわかる。これが多くの人を魅了して、今のような人気のある写真家になった理由だろう。

最初、ソウルライターを知った頃には、まだ存命中であったので、彼のインタビューなどを見る機会もあった。淡々とした語り口に性格が表れているような人柄だった。既に亡くなって10年が過ぎたが、今でもその当時と同じように、彼の写真を見ると新鮮な驚きが蘇る。

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