テレビは以前より見ないが、このところあまり映像配信も見ていない。それでも1つだけ数少ない楽しみにしているドラマがApple TV+の「Slow Horses」、日本語タイトルは「窓際のスパイ 」。英国のスパイ機関MI5を舞台にしたドラマだ。
これが面白いのは、主役を演じるゲイリー・オールドマンが素晴らしいのは、もちろんだが、加えてストーリー展開に毎回ワクワクさせられる。これこそミステリーテレビドラマの傑作と言えるだろう。
ゲイリー・オールドマンが演じる主人公、ジャクソン・ラムは、冷戦時代からMI5に所属するベテランスパイだ。彼は、過去の失態から「スロー・ホース」と呼ばれる落ちこぼれスパイ部門に追いやられ、無気力な日々を送っている。しかし、この失態と呼ばれるものをストーリーが進むにつれて国や何かを守るための明確な理由があったということが想像されるような感じがする。
MI5のトップとの対決も見応えがある。出世欲に満ちた官僚と、現場主義のラムとの確執は、組織の内部抗争を巧みに描き出している。MI5本部は効率的な作戦遂行を優先するあまり、人命を軽んじる判断を下すが、ラムは独自で、かつ時には違法な方法で事件の真相に迫っていく。この管理者と現場の対立という構図はありきたりといえばそうだが、ここはやはりゲイリー・オールドマンの演技力とキャラクター造形で、ありきたりには見えない。
ラム率いる「スロー・ホース」のメンバーは、それぞれが過去のトラウマや問題を抱えている。彼らの過去のストーリー展開が、こういう連続テレビドラマの常套手段とは言え、メインのストーリー展開の間に挟まり、個々の人物の興味も深まる。発生した事件のストーリーの縦糸の中で、彼らの葛藤も、物語に深みを与えている。
さらには、このドラマが素晴らしいのは、その映像だ。多分映画並みの製作費が投じられており、映像、音楽、演出など、全ての面で高いクオリティだ。
作家ミック・ヘロンの小説を原作としているが、このミック・ヘロンと言う小説家の事はよく知らないのだが、原作だけでなく脚本も良いのだろう。テロリズムや官僚主義などに鋭く切り込む内容が秀逸だ。そのストーリー展開と、スロー・ホースという負け犬が起こす最後のどんでん返しに爽快感を感じる。
色々書いても、このドラマの素晴らしいのはデイリー・オールドマンの演技力によるところが大きい。ジョン・ル・カレの小説、「Tinker Tailor Soldier Spy」の映画化の「裏切りのサーカス」で、彼が演じたスマイリーとはタイプが違うとはいえ、同じスパイを演じているので既視感もある。やはり、イギリスのスパイもののドラマは面白いことを再確認した。