スパイ組織のInstagram

by Shogo

イギリスのスパイ組織、保安部のMI5がInstagramのアカウントを開設したとして話題になっている。リクルートが目的だと、MI5自身が説明している。MI5は防諜組織で、海外からイギリスに対するスパイ行為やテロ行為を防ぐことを目的としている。

最初に投稿された、Instagramの写真は、イギリスの国会議事堂に近いエムズハウスにあるMI5の入り口で、中庭にある明り採りのガラスの天井から建物に囲まれと空を見上げたもので、一目では何かよくわからないような写真だが、非常に写真としては面白い。はっきりって好みだ。ロンドンによく言っていた頃に、テレビ局などに訪問する際に、よく建物の前を歩いていたことを思い出す。

イギリスのスパイ組織と言うとジェームス・ボンドを思い出すが、ジェームス・ボンドはMI6の所属で、イギリスが対外的に行う情報活動を担当する。これに対して、MI5はスパイやテロから国を守るための活動を行っている。その範囲は、イギリスの在外公館も含む。

個人的にMI5と言えば、チャーリー・マフィンだ。チャーリー・マフィンは、ブライアン・フリーマントルが創り出したMI5のスパイで、伝統的なイメージにある上流階級の子弟がマティーニを飲みながら国のために働くと言う人物像の対極にある。母一人子一人の貧しい生まれで、公立の学校しか出ていない。チャーリー・マフィンは、その出自のためにMI5の中で仲間外れにされている。仲間はずれということで、味方によって囮にされて、危うく殺されそうにもなっている。

しかし、明晰の頭脳と行動力で、驚く方法使って、常に窮地を出していく。このシリーズの第一作を読んだのは、大学を卒業した頃だが、その後何冊か読んだところでしばらく途切れていた。赴任したニューヨークの本屋で、ブライアン・フリーマントルの作品を探したが、大きな書店でも在庫がなかった。

そのために、このシリーズをまた読みだしたのは今世紀に入ってからだ。だから全15冊となるチャーリー・マフィンのシリーズを読み終えたのは、まだ5、6年前のことだ。一応のハッピーエンドになっていて、途中で何度もクビになったMI5の幹部となることがほのめかされたところでシリーズは終わっている。できれば続きを読みたいものだが、ブライアン・フリーマントルは、1936年生まれだからすでに85歳。続編は難しいのかもしれない。

チャリー・マフィンの人物造形は、やはり好きな作家のマイケル・コナリーの創り上げたハリー・ボッシュを連想させる。どちらも母1人に育てられた、厳しい環境から、強い正義感を持って人生や任務に当たっていく。チャリー・マフィンの方が、やや狡猾で生き残ると言うことに長けている感じがする。それはチャーリー・マフィンが、冷戦時代のロシアと西側の戦いと言う、ある意味戦争状態の中で活躍すると言うことも影響している。やはり、その点ではハリー・ボッシュは、アメリカの作家の創り出した人物で、また舞台もロスアンゼルスの警察と言うことで、舞台の違いも影響しているのかもしれない。他にもいくつも刑事や探偵のシリーズを読んでいるが、この2人が自分にとって最高の人物造形だと思っている。

MI5のInstagramからチャーリー・マフィンの話になってしまったが、この記事を読んで、思いついたのは数ヶ月前に、アメリカのCIAがリクルートのためにウェブサイトを一新した事だ。そのデザインや雰囲気が、まるでウェブ制作会社のようだと評判いなり、連邦政府の機関で、かつスパイ組織とは思えないような軽さが話題になった。

この英米の情報機関のリクルート対応について思うのは、そのような時代が既に終わってしまったと言うことだ。もちろんテロ対策など重要な業務を行っているが、ユバル・ノア・ハラリも書いているように、すでに縦割りの国の組織は崩壊して、FacebookやTwitter Instagramといった横割の大きな集団が世界をまたいで存在している。このようにインターネットサービスなどを通じて世界中の情報が共有され、人々がつながっている中で、スパイ活動とは何なのだろうか。何をするかよくわからないが、少なくとも若い優秀な人を集めるだけの魅力に乏しいと言うことだけは確実だろう。このMI5のInstagramやCIAの新しいウェブサイトがそれを証明している。

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