フィルム写真は結果が予期できないから良い

by Shogo

冬青社ギャラリーの渡邊博史さんのギャラリートークに行った。聞き手は芸大教授の伊藤俊治さん。渡邊博史さんは好きな写真家の一人でご本人を見るのは初めて。

前半は渡邊博史さんの作品に多いポートレートや仮面の話。仮面劇はギリシャで生まれ日本で完成したという話や、渡邊博史さんの作品にある能面は抽象化された人格や感情だが、伎楽面は中国やインドから渡来した、もっと原始的だという話。しばらく前に上野の国立博物館法隆寺宝物殿で見て伎楽面のプリミティブな強さが気になっていたので、そのあたりの解説は面白く聴けた。

仮面には人間の人格や感情が染み出ていて、それが写真に出ているという伊藤教授の解説があったが、仮面は人以上に人らしい感じがある。

渡邊さんがポートレートを撮るきっかけとなったのは、娘さんの参加したアフリカでの写真のワークショップで、その時にアフリカの街中でいろいろな人を撮ったのが面白くてポートレートを始めたそうだ。それから「私は毎日、天使を見ている」という作品集のために、エクアドルの精神病院で患者の写真を撮った時の話も面白かった。特に写真を撮られることで患者の状態が良くなったというあたりは、まさに写真セラピーだ。

渡邊さんは、フィルムを使って作品を作っているが、このあたりを聞かれて答えたのが、今日のタイトル。「フィルム写真は結果が予期できないから良い」 今回の写真展の作品は、東京も含めた様々な都市で撮られたものだが、その写真を撮る時にいちいちディスプレイで撮ったものを確認していたら、集中できないということと、ディスプレイで確認していたら何度も撮り直して思った通りのものが撮れるが、それ以上の写真にはならないということをおっしゃった。つまり渡邊さんにしても、フィルムで撮影して予想のつかない写りをしていたり、予定しないものが写り込んでいたりするという意図しない結果を写真の要素としているということなのだ。まさに同感だ。

それから一番好きな瞬間は、フィルムを現像してベタをとった時だということだ。何を撮ったかも忘れていてベタで見て思いだす瞬間が最も好きだということだ、これは多くのフィルムで写真を撮っている人が共有する思いだろう。

渡邊さんの写真を見て少し飲んで、V字型のノッチが写真の黒い枠に写し込まれているのを見ながら、ハッセルの写真もまた撮り始めようかとも思って帰ってきたら、すごい雷雨で雨宿りすることとなった。写真展は、あと1週間あるからもう一度行きたいかな。

ギャラリー冬青    渡邉博史 写真展  「楽な道、暗い道」

2011年9月2日(金)~9月24日(土)
11:00 ~ 19:00
休館日:日曜・月曜・祝日

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