歌舞伎町を通りかかった。もう、随分前から歌舞伎町は行かない街になっている。学生時代は遠い昔だ。数年前に相手の指定した店が、歌舞伎町だったので、来たことが記憶にある程度だ。歌舞伎町と言えば、コマ劇場の後にできた東宝の映画館に行く程度だ。それもこの2年はコロナ禍で映画館に行っていない。それがたまたま新大久保に行く用があったので、歩いて新宿駅に戻る途中に通りかかったのだ。
山手線から巨大なビルが建設中なのは見えていた。だが、その正確な場所についてはわからなかった。それが、その時に場所がわかった。大昔に池と噴水があった広場のコマ劇場の反対側の、映画館があった敷地に建設中だったのだ。
昔は六大学野球の時などは、学生がその池に飛び込むのが有名だった。私個人は勇敢ではないので、あの池に飛び込んだこともない。ただその池がそこにあると思っていたら、何もないツルツルの広場になっていて驚いたことがあった。それも、昔だ。
歌舞伎町も、コマ劇場があった一角に巨大なホテルと映画館ができて雰囲気が変わった。そして、そのビルとツルツルの広場と向かい合うように高層ビルの建設が進んでいる。48階建てのホテルや商業施設を含むようなビルになるようで、完成すれば歌舞伎町の雰囲気はまた変わるのだろう。
その建設中のビルの仮囲いに沿って歩いて、西武新宿方向に歩いているときに仮囲いの写真に気がついた。ラグビーワールドカップの時に、日本各地で仮囲いにラグビーワールドカップの告知の広告を設置していたときの経験から、仮囲いの装飾には敏感になっている。
その仮囲いにプリントされた写真を見て歩いていて、唇を大きく写した写真を見て、森山大道と気がついた。仮囲いをギャラリーとして使って森山大道の写真を展示していたのだ。歌舞伎町と言う街にこれほどふさわしい写真家はいない。その仮囲いの前を行ったり来たりしながら森山大道の写真をしばらく見た。その路地には、何人かが立ち話をしていたが、仮囲いに注意を払っている人はいないようだった。通り過ぎる人も立ち止まることもない。
仕事でロンドンによく通っていた頃に、あるときに最終日の帰国の便までの時間つぶしに、Tate Modernまで歩いて行ったことがあった。軽い雪が舞っている日だったことを覚えている。あのミレニアム橋の上から、Tate Modernが見えてくると、ビルの上にローマ字表記の日本語らしいものが見えた。近づいていくとMoriyamaと書かれていた。それが何の、Moriyamaかわからなかったが、その前にKleinと書かれていたので森山大道とわかった。
Klein+Moriyamaというタイトルの二人の合同回顧展とも言うべき大規模な展示だったのだ。これは大変ラッキーで、2人のこれまでの作品をカバーする多くの写真を見ることができた。ストリート写真の巨匠の合唱曲のような展示だった。その頃は忙しくて、どこで、どのような展示を行われているか確認すらしていなかった。だがロンドンに行くと、時間があれば大抵Tate Modernやその周りを歩くことが多いから、ラッキーに巡り合ったようだ。
その次に、森山大道の写真展に行ったのは数年前に中目黒のPoetic Scapeで、モノクロの桜の展示を見た。これもとても良くて当時1枚欲しいと思ったが,当然買えない。
そして今回の歌舞伎町の仮囲いでの展示だ。これも森山大道らしくて良いと思ったのは最初に書いた通りだ。新宿には森山大道だ。
今後は今回のこのビルの仮囲いのように、その建設現場に関係のあるアーティストの作品を、必ず仮囲いに展示することを義務づければ良いと思う。転写の費用は決して安くないので、誰が費用負担するかと言う問題はあるが、少なくとも殺風景な建設現場を変える効果はその費用よりも大きい。