このところ、カラーの写真は撮らなくなってしまった。フィルムでモノクロームの写真ばかり撮っている。自分で現像してプリントしてと考えるから、そうなるのだが、もうひとつは、目で見られないものを見たいからということもある。目で見る世界はカラーだし、夢もたいていはカラーで見ている。モノクロのフィルムで撮った時だけが、世界はモノクロームに見える。写真の目的や功能はいろいろあるのだろうが、目下のところ私にとっては目で見られないものをカメラを通して見るということ。
写真のプリントの白い部分は光が当たったということで、黒い部分は光が当たらなかったということだが、フィルムでは黒い部分は光が当たったということ。 頭では分かっているがフィルムを見て想像するのは素人には難しい。マイナスのマイナスはプラス。写真のこのプロセス、つまりカロタイプと呼ばれる方法をタルボットが発明したのは1835年ということだ。ただし、この方法は公表されなかったので、世界最初の写真とされるのはダゲールのダゲレオタイプが1839年に発明され発表された時となる。
ただし、ダゲレオタイプは、ポジティブの画像を写し撮って定着するので、写真は一枚しかできない。これに対して、カロタイプは、ネガティブを写し撮って、プリントで反転してポジティブの画像が得られるので、たくさんの複製が可能な方法だ。マイナスのマイナスはプラスだ。この方法が最初からできていて、175年たった今でも同じというのが感動を覚える。現実の黒がフィルムでは白く(透明に)なりプリントでは、そこが黒くなる。素晴らしい発明だ。
白と黒で言えば、唐突だが、サーチエンジンに引っ掛かり易くすることをSEO(Search Engine Optimization、サーチエンジン最適化)というが、ここで使われるのがWhite Hat SEOとBlack Hat SEOという用語で、whiteは通常の正当なSEO、blackは不正でスパム的なSEOということだ。この用語が生まれたのは西部劇で白い帽子をかぶっているのは正義の味方、黒い帽子をかぶっているのは悪漢、敵役というように決まっているからだとか。
これで言えば、黒いカメラが好きな私は悪漢ということになる。シルバークロームモデルとブラックモデルがあれば、間違いなくブラックを選ぶ。カメラは(に限らないが)黒い方が美しいと思うのは私の単純な美意識だ。
そもそも、かつて大型のビューカメラは木枠で黒い布をかぶって撮影していたし、小型カメラの元祖であるバルナックライカが発明された時も黒だった。戦後になってバルナックIIIあたりからシルバークロームになったようだが、ライカがM3を発売した時はシルバークロームだけだった。。戦後ははシルバークロームメッキの技術が黒いカメラよりおしゃれだったのかもしれない。有名な話はブレッソンなどはストリートスナップをするのでカメラを目だ立たせなくするために、シルバーのボディに黒いテープを貼って使っていたから、ライカが黒いカメラも作ったとか、戦場で使うカメラマンはシルバーの光るカメラでは危ないので、黒が必要だったとか言われているようだ。でもM3,M2ではシルバークロームのモデルが主流だった。だからみんな白っぽいカメラを使っていた。
なのでM3とかM2の黒が欲しいと思っても、そんな訳で希少価値があり、私には天文学的な価格だから、美意識に泣いてもらってシルバークロームのモデルになる。本当は、黒でペイントが禿げて少し端から地がでたM3とか欲しいのだが、シルバーのカメラで我慢。ここでwhite hatの正義の味方に変わろうということでもない。ブレッソンの真似ということで黒いテープでも貼ってみようか。