日銀の植田総裁は2月に、日本経済について今後も物価上昇が続くとして、「デフレではなくインフレの状態にある」と述べたが、世界の食料品のインフレについては2024年の第1四半期では落ち着いてきているようだ。今朝の記事によると国連食糧農業機関(FAO)が発表しているのFAO食品価格指数は、ロシアのウクライナ侵攻直後の2022年3月のピークから減少している。ただし、2014-2016年の基準期間と比較すると、まだ食品商品価格が19%も高い水準にある。
ウクライナにおける戦争は、FAO食料価格指数を構成する5つの指数のうち、穀物と植物油の指数に特に大きな影響を与えた。この地域は世界の穀物供給の主要な役割を果たしており、植物油もウクライナの主要な輸出品の一つだからだ。両指数はロシアの攻撃直後に急上昇したが、その後は2020年末のレベルまで下落している。
ウクライナ戦争により食料価格が上昇した主な要因は、いくつかあるが、直接的には、世界有数の穀物輸出国のウクライナの生産と輸出が大幅に減少したことがあげられる。ロシア軍によるウクライナ黒海港の封鎖で、2022年3月から5月にかけて小麦輸出量が90%以上減少した。2021年と比べ、2022年のウクライナの穀物生産量は29%減少したようだ。
ロシアの影響も大きい。ウクライナとロシアを合わせると、世界の小麦輸出の36%、植物油輸出の50%以上を占めていたそうだ。戦争による供給減少を受けて、2022年3月には穀物価格が58%、小麦価格が34%上昇した。これだけのシェアを持つ2カ国が戦争をしているのだから、大きな影響が出るのは当然だ。
この結果、ウクライナとロシアからの食料輸入に依存する発展途上国で、食料不足と価格高騰の影響が特に深刻となった。2022年には2億5800万人が深刻な食料不安に直面した。当然日本も影響を受けて食料品のインフレが起こった。
問題はそれだけではない。ウクライナとロシアからの供給が減少しただけでなく、世界各国の食料生産にも大きな影響が出たそうだ。それは、肥料価格の上昇だそうだ。ロシアは世界最大の肥料輸出国だったが、戦争と制裁により供給が減少し、肥料価格が上昇した。これが食料生産コストの上昇につながったという。これも、またインフレの要因のようだ。
ウクライナにおける戦争は、世界の食料システムに大きな混乱をもたらしたと言えるのだろう。その結果が世界的なインフレだ。しかし、ウクライナからの食料輸出が当初途絶えた後、黒海穀物イニシアチブと代替輸送ルートにより、食料安全保障のために輸出が再開された。これが、2024年には多少は効果が出ているということのようだ。
しかし、食料価格の高騰は一服しつつあるものの、依然として高止まりの状態が続いているため、特に低所得者層や途上国では、食料品への支出割合が高いため、価格高騰の影響を大きく受けているというのが、FAOの分析だ。
食料価格の動向は、世界経済や地政学的リスクに大きく左右されてきた。ウクライナ情勢の行方や主要国の金融政策、さらには異常気象など、様々な不確定要素が存在する中で、食料の価格がどう動くかが、今後の景気動向にも影響を与える。
株式市場に大きな影響を与える米国経済をみると、インフレは不安な要因だ。2024年第1四半期の米国経済は予想よりも低い成長を見せた。食料品は多少落ち着いたものの、耐久財の消費が減少したことが経済に影響を与えている。米国経済分析局(BEA)のデータによれば、2024年第1四半期の米国の実質GDPは年率1.3%増加し、以前の1.6%の推定値から下方修正された。2023年第4四半期の3.4%の成長と比べると、消費支出、輸出、政府支出の減速と輸入の増加が成長率の低下につながっているようだ。それでも、ダウやS&Pは高い水準にある。アメリカ株や流行りのオルカンに投資を行う人にとっては不安な状況であることは間違いない。
世界の食料価格に話を戻すと、2022年に急騰した食料価格が、2023年には一旦落ち着きを取り戻している。しかし、ウクライナ戦争やパンデミックの影響が続く中、依然として基準期間に比べて高い水準にある。世界の食料供給と価格動向は世界の経済と政治に不確実性をもたらせていることは間違いない。同時に、米国経済はインフレの影響を強く受けており、消費支出の減少が成長への不安要因となっている。株式投資を行う人にとっては世界の株式市場の大半を占める米国がどうなるのか心配は多い。
株式投資の人はおいていても、戦争が続く状況では、ウクライナとロシアからの食料輸入に依存する発展途上国で、食料不足と価格高騰の影響はまだ深刻だ。特にサブサハラアフリカでは、影響が続いているようだ。世界各国が協力して、食料生産と世界的な供給に取り組むべきだろう。