危機に瀕している世界遺産

by Shogo

ユネスコは、ベネチアとその周辺のラグーンを「危機に瀕している世界遺産」のリストに入れることを勧告した。最終決定は、九月にサウジアラビアのリヤドで開催される会議で行われる予定となっているそうだ。これには、イタリアやベネチアは異論を唱えている。

ベネチアは、世界遺産の環境を守るために様々な取り組みを行ってきている。ラグーンへのクルーズ船の出入りを禁止し、高潮を防ぐための防潮堤も建設している。

しかし、ユネスコは、気候変動による海面の上昇による建物の侵食、多数の観光客、開発プロジェクトに伴う世界遺産の被害に対して十分な措置がとられていないとして、「危機に瀕している世界遺産」に入れることを勧告したようだ

ベネチアの対策は十分ではないようだ。議論されてきたクルーズ船の寄港は、観光業には打撃となるために停止されていない。また、観光客については、ベネチアそのものへの訪問の事前予約制が提案されたが、実行には至ってない。このどちらも地元の観光業の反対のためのようだ。ベネチアの観光事業は2,000億円の収入があると言われており、最大の産業だ。これに影響があることをしたくないのだろう。

たが、観光客の制限は、その気になればできないとはない。しかし、高潮による建物の損傷については、簡単ではない。大学生の時にベネチア訪れた際のサン・マルコ広場の印象が強く残っている。しかし、そのサン・マルコ広場は、写真でかなりの深さまで浸水した状況を見るようになってきた。

調べてみると、2019年11月に187センチの高潮が記録され、これは1966年の194センチに次ぐ歴史上二番目の高潮の記録のようだ。つまり1978年夏の訪問以前にも、高潮による浸水は起こっていたことになる。ベネチアでは、毎年秋から冬にかけてシロッコと呼ばれる、強い南風が吹き、海水を押し上げて高潮となり浸水被害が起きている。この高潮は100センチ程度だが、時として、これを遥かに超えるようだ。しかも、世界的な気候変動により、異常な高潮が起こる事は増えてきたと言う事のようだ。行ったのは夏だったから、高潮の季節ではなかっただけのようだ。

ベネチアを訪問してから、何年か後に読んだ塩野七生さんの「海の都の物語」の中に、ベネチアの街と海が、サン・マルコ広場で結婚式を挙げると言う美しい記述が出てくる。もう一度あの場所に立ってみたいものだ。

ベネチアは、高潮の被害を防ぐための巨大な水門を海底に寝かせた形で設置し、高潮の際に水門を垂直に立てて、海水の侵入を防ぐ工事を2020年に行った。この計画は、エジプトからモーゼがユダヤ人を連れて脱出した際に、海を切り開いた話にならってモーゼ計画と名付けられた。この工事の結果、ベネチア周辺のラグーンの生態系に変化も起き始めているようだ。

だが、モーゼ計画でも完全ではない。街を守るために確実な方法は防潮堤ではなく、ベネチアを完全に海から切り離すような工事しかないのではないだろうか。これから気候変動によりさらに海面の上昇が予測されている。防潮堤では守れないだろう。

未来に向けて街を守るためには、ベネチア周辺を完全に干拓してしまう以外に方法はないと思われる。莫大な費用がかかることは当然だが、それでは世界遺産はおろか、街の性格を完全に変えてしまう。海とともに発展して、海の女王と呼ばれたベネチアの歴史や多くの観光資源が失われてしまう。それでも、街が海に飲み込まれれるよりは良い。

栄えたものは、いつか滅びると言う自然の摂理と言ってしまえば、それまでだが歴史が失われると言うのは悲しいものだ。できれば、近いうちに原型が残っている間にもう一度訪れたいと考えている。

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