ロンドンの自然史博物館でセバスチャン・サルガドの写真展を見に行った。今回の展示はSebastião Salgado ”Genesis”というタイトルで、同時に写真集も発売されている。いかにもサルガドというようなモノクロプリントで、どこで撮ったのというような写真ばかりだ。氷山から熱帯雨林まで、ガラパゴスの亀からアフリカの少女まで。Genesis創世記と名付けられた写真展はまるで地球の起源に迫ろうとするようにあらゆる自然を見せてくれる。
今回の展示を読んで驚いたのは、サルガドはデジタルに転向していたということ。キヤノンのデジタルで撮ってデジタルネガを作って、そこからはトラディショナルな銀塩プリントをしているということだ。そのあたりの理由としては撮影旅行の際の大量のフィルムの持ち運びをあげている。トランクいくつものフィルムをテロ対策のために厳しい空港のセキュリティをいくつも通って撮影旅行をするのが難しくなったというのだ。確かに空港のセキュリティは厳しく、フィルムのハンドチェックを頼んでもやってくれる時と、ISO400程度なら問題ないと言って取り合ってくれない時もある。X線が大丈夫だと言っても何度も通すと問題があるかもしれないから、フィルムを使って撮影旅行をするのは難しいのだろう。しかも旅先は大抵、へき地で最新のセキュリティ機材ではなく古い強いX線ということもあるかもしれない。
展示されていたプリントは銀塩の粒状感のあるものでデジタルとは思えないが、言われてみるとコントラストの際立った鮮明さはデジタルかなとも思う。これも言われてみたらという感じで、特に際立っているわけではない。それに、そのことが写真の素晴らしさとは何の関係もない。自分が絶対に撮らない写真(撮れない写真)だから興味深く、かなり時間をかけてみていた。それはよく言われるように写真は被写体と密接に結びついているために写真を見ているのか被写体を見ているのか分からない状態で一つ一つの写真の世界に見入っていたのだ。
*写真はアーセナル・スタジアムにサッカーを見に行った時のもの