2020年7月の日経の「私の履歴書」は杉本博司さんだった。杉本さんは私の好きな写真家の数人の中の一人だ。しかし、写真家というのは杉本さんについては適切ではない。美術家というべきだろう。
最初に杉本さんの作品を知った頃は、写真家としてだった。「劇場」、「海景」や「建築」には痺れた。そのような写真は見たこともなかった。元々、ミニマリスト的な写真が好みだったからだろうが、完全にツボだった。最初は、その写真の絵柄に強く惹かれたのだが、そのコンセプトを知ってさらにハマった。
例えば「劇場」は映画一本分の時間だし、「海景」は古代からの時間、古代人が見た風景だ。「建築」については、建築家の最初のイメージを無限を超えてピントを外した写真で表現している。
最初は画像や絵柄に魅力を感じていたが、段々とそのコンセプトの作り方に敬服した。敬服したなどという表現は上から目線かもしれないが、コンセプトを独創するアーティストへの尊敬に変わったわけだ。
今までに彼の本は全て読んでいるから、ずいぶん昔から、もはや「写真家」ではないことは知っているが、改めて「私の履歴書」を一ヶ月読んで、素晴らしいアーティストと再認識した。連載にはあまりディテールなので登場しないが、各シリーズの撮影方法や機材などのこだわりもすごいものがある最新作の「OPTICKS」では、古いポラロイドを使って、プリズムから分光した光を撮っている。技術的にも高度なものだし、制作にかかる時間も費用も凄そうだ。ニュートンの「光学」から発想されているというが、常に色々なアイディアを考えているのだろう。凡人と比べてはいけないが、全てのシリーズのアイディアに毎回驚かされる。
とは言え、好みがあって、「ジオラマ」とか「蝋人形」とかは好きではない。虚を虚の写真で撮ると実になるというのは素晴らしいが、画像としては面白くない。やはり、コンセプトで鑑賞するもので、その意味で現代美術の範疇に入るものなのだろう。ちょっと私にはレベルが高すぎるということか。
コロナの今ではあるが、京都市京セラ美術館「杉本博司 – 瑠璃の浄土」展に10月までに行って、遅くとも来年には直島に護王神社を見に行きたいものだ。そうだ、小田原の江之浦測候所にもまだ行っていない。