フェルメールの作品をすべて見たら、次はカラバッジョの絵を見て歩こうと考えていた。それは、カラバッジョもフェルメールと同じくらい好きだということもあるが、作品の数からコンプリートも可能ということもあった。カラバッジョを見るなら、彼の活躍した都市で作品もたくさんあるということで、ローマに旅行することにした。
フェルメールの絵の特徴が静かな光の階調だとすれば、カラバッジョの魅力は、その明暗のコントラストとドラマチックな場面だ。フェルメールのパトロンは、オランダの豊かな実業家だったから日常生活をテーマにしたものが多い。しかし、フェルメールの前の世代のカラバッジョの時代には、パトロンは教会だったから宗教的なテーマが多い。しかし、その宗教的なテーマであっても現実的な印象があって、彼以前の宗教画とは全く違う。
彼は、現実をありのままに描こうとしたようだ。だから、細部まで精密に表現になっている。人物や風景、木々や岩、水面などが、細部まで描かれている。これが、彼の絵をそれまでの宗教画とは違って見える理由だ。さらに、そのモデルも市井の普通の人が使われた。娼婦が宗教画のモデルになって問題になったこともあったようだ。
カラバッジョの絵は、明暗のコントラストが非常に強い。強い光を画面の一部に当てることで、人物や風景を際立たせる。例えば、この「ホロフェルネスの首を斬るユーディット」では、ユーディットに強い光が当てられており、その周りの人物は暗く描かれている。この強い明暗のコントラストによって、画面にドラマチックな雰囲気が生まれている。
画面で目を引くユディットの衣服の色彩と質感が、他の作品と同様に暗い背景から浮かび上がるように描かれている。光はユディットの顔と腕、そしてホロフェルネスの表情を明るく照らし出し、場面を劇的に演出している。
絵画は、旧約聖書の物語に基づいており、ユディットが敵の将軍ホロフェルネスの首を斬る場面を描いている。カラヴァッジョの作品に典型的な、鮮やかな光と影の対比、強烈な感情表現、そしてリアリスティックな人物描写が特徴だ。ユディットがホロフェルネスの首を斬る瞬間を捉え、血しぶきの表現とともに視覚的な緊張感を創り出している。彼女の腕の動きや、彼女の顔の表情には、決意と嫌悪感が表れている。ホロフェルネスの顔には、死の恐怖が表れている。このドラマチックな表情の表現が絵に緊張感を与えている。
パラッツォ・バルベリーニには、「ホロフェルネスの首を斬るユーディット」以外にも「ナルシス」と「祈る聖フランチェスコ」も収蔵されており、3作品をみることができた。ローマの中心からやや東寄り。ローマの住宅地でアパートビルが並ぶ坂を下りてゆくと豪奢な宮殿が現れてびっくりした。門を入ると、まさに宮殿でゆったりした雰囲気で良かったのだが、先を急がなければいけない気持ちもあって、早々にパラッツォ・バルベリーニを後にした。カラバッジョの3作品以外もたくさんの絵画があり、もう少しゆっくりすれば良かった。