スポーツ王国の広島には、人気チームがそろっています。ですから、チケット販売の苦労はあまりないと思いますが、チケットは難しい商品です。それは、商品内容は試合当日まで確定しないために、期待だけで買ってもらうからです。
マーケティングとは、商品の価値を伝えることです。その価値の伝え方については、ターゲットや市場を考慮して戦略的に決定する必要があります。筆者が担当したラグビーワールドカップ2019(以下RWC)の場合は、ラグビーの人気の低迷のために、どのように価値を伝えるかが大きな挑戦でした。
2014年当時、ラグビー日本代表の試合は、視聴率3%程度、観客動員も5000人程度でした。ラグビーのプロリーグであるトップリーグの観客動員数は、年間50万人程度で、Jリーグやプロ野球とは桁違いでした。
しかも、チケット総数は当時180万枚の想定で、トップリーグの年間観客動員数の3倍半の観客を集める規模。しかも、チケット販売にかけられる広告費は僅かでした。このため、策定したマーケティング戦略は、デジタル中心で、3つの柱を持っていました。1)データベースマーケティング、2)イメージを変えるブランド戦略、3)コンテンツマーケティングです。
データベースマーケティング
ラグビーに関心のある人を確実に買ってもらうことを基本としました。多くのスポーツ組織のように、ファンクラブの創設です。イベントやウエブで会員登録を進め、メルマガを送り続け、チケット販売の際には優先購入のチャンスを作りました。このターゲットには、購入後も、同一都市の他の試合などの購入を勧めるクロスセルも積極的に行いました。どのビジネスにおいても、ロイヤリティーの高い顧客に確実に買ってもらうことが基礎票になります。
コンテンツマーケティング
スポーツは、そのものがコンテンツです。過去の映像や記録を使って、多くのプロモーション用のコンテンツが作れます。過去のRWCの映像を利用したコンテンツをサイトやSNSで配信しました。過去の映像であっても、解説をつけたり、情報を加えることで、魅力的なコンテンツになります。さらに、参加予定の選手やチームの最新情報を発信し、大会そのものの魅力を伝えることに全力を挙げました。
イメージを変えるブランド戦略
ラグビーは古いスポーツというイメージを変えるために、様々なジャンルの有名人にラグビーの魅力と一生に一回という希少性を語ってもらいました。すべてのビジネスには既存顧客と新規顧客がいます。有名人が、魅力を語ることで、新規の顧客の興味を惹き、まず関心を持ってもらうことを目指しました。
上記以外では、サイトへの新規訪問者と再訪問者を区別して、再訪問者については、試合の詳しい情報を見せることや、チケットサイトで希少性を演出するために、「残券少」などの表示も行いました。
大会も日本代表のベスト8に入る活躍で大いに盛り上がり、残っていたチケットが一掃され、約184万枚、総枚数の99.3%まで売り進みました。しかし、事前の努力により、開幕前日には93%のチケットをすでに販売していたので、販売目標は大会前に達成していたのです。価値を創り、期待感を盛り上げ、それを効率よく、販売サイトでの購入につなげるためのデジタルの施策が成功したと言えます。
【広島経済レポート寄稿文】