The Journal of Neuroscienceに発表された研究によれば、運動が認知症のリスクを下げることが証明された。しかし、そのメカニズムについては解明されていないということだ。
この研究は、実験に参加した老人が動き回ったり、じっとしているかをモニターした。そして、その老人が亡くなった後、脳の解剖によって、活動的な人とそうでない人の違いを調べた。活動的な人の場合、脳の重要な免疫細胞が健康なことが発見された。肉体的な活動が、脳を健康にし、思考能力を維持し、認知症に影響することがわかったということだ。
これまでも同様の研究がたくさんあり、別の研究でも、活発な老人が1日に1時間歩き始めたところ、脳の海馬が大きくなったと言う研究結果も報告されている。このように、運動と脳の機能に関係がある事はわかっているが、それがどのようにして起こるのかについてはまだ分かっていない。
ネズミを使った動物実験の結果からは、運動によって脳細胞をつなげたり、育むだけでなく、新しい神経細胞や脳神経を活性化するホルモンや神経物質の分泌が促進されることがわかっている。この研究は、運動を活発にしたねずみの脳と活発に運動をさせなかったねずみの脳を解剖により比べている。
このねずみの研究によれば、歳をとるにつれて脳の中枢神経型グリア細胞の1つのミクログリアが機能しなくなり、炎症を引き起こし、その結果として、脳の健康な細胞を破壊し始める。このため記憶や学習能力に影響が出ることがわかっている。しかし、活発な運動したネズミの脳はミクログリアが維持されているために、炎症が少なく、加齢による影響が少ないと言う。
今回のThe Journal of Neuroscienceで公表された研究は、ネズミではなく、実際の人間の脳の解剖から同様の結果が得られた。実験に参加して亡くなった人の167人の脳細胞を、解剖して研究した結果だ。亡くなるまで活動的だった人のミクログリアは維持されていたことが確認された。この結果は、動物実験の結果と同様のものだ。特に記憶を司る部分のミクログリアが運動と強い関係のあることが証明されている。
興味深いのは、活発な運動といっても、対象となった人々がマラソンを走っていたわけではない。通常の生活の中で、単に座っているだけではなく、動き回るだけで脳の炎症を抑えて、ミクログリアを維持していたと言う事のようだ。
人間の体と言うのは本当に不思議なものだ。何億年と言う進化の末に、本当に複雑なものが作り上げられたのか。あるいは神が存在して、そのような設計図を描いていたのだろうか。
その答えは誰も、たどり着けない。だから、とりあえず毎日体を動かすことが、考え続けることを維持するために必要なことのようだ。