オリンピックの身代金

by Shogo

飛行機に乗る時はいつもの電子書籍は持っていくが、同時に紙の本も手に入れている。離着陸の時に電子書籍を読んでいられないからだ。先日の旅行の際に本屋で見かけて読んだのが「オリンピックの身代金」。2020年が決まってちょっと脚光を浴びたのか目立つ場所に置かれていた。

ストーリーはネタバレになるので触れないが、1964年の東京オリンピックの開会式直前の3カ月ほどで物語は展開する。新鮮だったのは、事件が起こり犯人の動きは事件の一か月前あたりからなぜ犯行に至るのかが時間を遡って書かれている点だ。つまり、ストーリーに二つの時間の流れがあって実際に起こる事件とそれを起こすに至る犯人側の出来事と心理状態が一カ月離れて後追いで記述されていくのだ。これは、内容に説得力があるかはともかくストーリー展開としては新鮮だった。

でもこの本を読んでいて最も面白かったのはオリンピックを迎える日本の特に東京の様子がさまざま本を参考にしながらストーリーに書きこまれていることだ。まず、冒頭では車で井の頭通りを走ってきた登場人物が富ヶ谷の交番のある交差点で右折をする。理由は、代々木公園の中を原宿へ抜ける 広い道はまだ作られていないからだ。代々木公園はワシントンハイツとして米軍の住居に接収されていて緑の芝生に白い家が立ち並ぶ日本人立ち入り禁止の米軍施設だ。今では、右折する車は左手にNHKを見ることになるが、ここもまだ建設中だ。

武道館や代々木オリンピックプールは建設中だし、新幹線やモノレールも建設中で物語の中で開通する。ホンダの車やソニーのトランジスタラジオも出てくる。街の雰囲気も今とはまったく違っているのが良く分かる。でも作者が書いていて一番力を入れているのは、作者の想像が大きいのだろうが、オリンピックを迎える日本人の気持ちだ。敗戦から19年、世界に恥ずかしいところを見せたくないという気持ちと、日本もオリンピックが開催できる国になったという誇りがまじりあった高揚感に包まれている。

オリンピックの効用について意見はあるが、この本を読んで思ったのはあの戦後の復興の過程で国をまとめるという意味があったのと同様に21世紀の日本の将来のために国のありかた、その中での自分の生き方を考えるきっかけになれば良いと思った。後から知ったのだがテレビドラマにもなるようで、そちらも見てみようかと思う。

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